第12話 主人はケチです
「アレン、終わりましたよ。褒めてください」
戦いを終えたディーネはまるで頼まれたお使いを終えてきた子供のようにニコニコと笑いながらアレンの元へ駆け寄ってきた。
「よくやったな、ディーネ」
「もぉ、そこはさすが俺のディーネだ。って言いながら頭をナデナデするところですよ」
「はいはい、一人でやってろ」
「アレンのいじわる!」
二人のじゃれ合う姿をエリーは茫然と見つめていた。本当にあの魔人を退けてしまった。しかも見る限りでは無傷で、余裕すら感じられる。これほどの手練れがこんな田舎町に眠っていたなんて…… それもただの雑貨屋の店員として。
アレンという男。あれほどの力を持つディーネが仕えているということは、ディーネ以上の力を持っているのか、もしくは何か弱みを握られているのか……しかしこの二日間二人のやり取りを見ている限り後者である可能性は低い。アレンは分からないが、ディーネは好意を抱いていることをあからさまに見せている。
それにあのマジックシールド……魔人を一撃で消し去った威力が ある魔法を完全に防ぎ切った。それだけで高い魔力を保持している ことは明らかだ。エリーが様々なことを考察していると、アレンが話しかけてきた。
「ところで団長さん、これからどうするんだ。マグニー火山に行くって言っていたけど流石に引き返すか?」
エリーは顎に手を当てて暫し悩み、
「いや、私はこのまま向かうわ。今回の任務はグレイグや魔人を倒 すことではないわ。それにこのまま手ぶらで王都へ帰ったら死んでしまった仲間達が報われない。でも今回は本当に助かったわ、ありがとう」
二人に向かって深々と礼をして、振り返り休むこともなく森の 奥へ進もうとする。
「ちょっと待てよ。俺達もマグニー火山に火口石を取りにいくんだ。 でも久しく火山には行ってないから道が不安なんだよ。よかったらついて行ってもいいかな」
エリーは再度振り返り、ジッとアレンの目を見る。アレンも目を逸らすが、
「あなた、ほんとに嘘が下手ね。分かった、こちらからも是非お願 いするわ。それとエリーでいいわよ。別にあなたの団長ではないわけだし」
と、エリーは髪をかき分けながら少しばかり顔を赤らめ言う。
「あ、あぁ、わかったよ、エリー。俺のこともアレンでいいよ」
答えるアレンも同じように顔を赤らめていた。 その二人の姿をディーネは母親のように微笑ましく眺めていた。
「さぁ、二人ともいちゃついてないで早く行きましょう。日が暮れてしまいますよ」
「だ、だれがいちゃついているのよ。道が不安なんでしょ! 早くついてきなさい」
ますます真っ赤になりながら、すたすたと森を進んでいった。道中はうって変わって平和だった。グリズリーも一体も現われな い。しかしマグニー火山が近づいてきたせいか気温がどんどん高くなっている。エリーの額からも汗が滲み出ている。その姿を見て、 アレンは声をかける。
「エリー、そろそろ着くからその前に休憩しようか。もう少し行っ たら休めそうな場所がある」
「分かったわ」
三人はひらけた場所を見つけ座り込む。
「ところで、火山への道は思い出したみたいね」
「え? あっ、あぁそうだな。歩いていたら思い出してきた」
動揺するアレンを見て、エリーは笑う。
「もう下手なウソなんてつかなくていいわよ。目を見なくても分か るわ。サラマンダーに会う私が心配なんでしょ」
「ウ、ウソってなんだよ。ほ、本当だし」
「アレン……私から見ても動揺しすぎてバレバレですよ」
ディーネからも言われると、観念したようにフーと一息つく。
「あぁ、そうだよ。サラマンダーは四大精霊の中でも、ちょっと厄介だからな。まぁ、本来なら四大精霊に会おうってこと自体が無茶なんだけど。一体なんでサラマンダーに会う必要があるんだ?」
エリーはしばし悩む素振りをみせ、答える。
「これは極秘なんだけど……今アノールドの王女様が病気なの。徐々に体が凍っていく奇病よ。原因は不明。それを治す為に、サラマ ンダーの鱗を煎じて飲む必要があるの」
「なるほど……」
確かにサラマンダーの鱗は常に高温の熱を放っており、鱗を一枚、 氷ついた池に投げ込むだけで一瞬にして熱湯に変わってしまうと聞いた事があった。
「エリー、サラマンダーとは俺が話してみるから任せてくれないか ?」
「えっ? それは別に構わないけど、もしかしてサラマンダーと会ったことあるの?」
「あぁ、昔ちょっとな……」
そう言えば、アレンはさっきもサラマンダーのことを厄介と言っていた。エリーは、サラマンダーと会ったことがあり、あんなに強い女性を従えているアレンが何者なのか気になっていた。
「じゃあ次はアレンの番ね。私はちゃんと極秘任務まで話したんだ から、ちゃんと答えるのよ。あなたは一体何者?」
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