第11話 少し本気を出しますよ
「私、魔人って種族が大嫌いなので手加減しませんよ」
「ははっ、やる気満々だな」
そう言いながら、二人はエリーを守るように前に立つ。エリーは それでも止めようと手を伸ばそうとするが、二人の背中がそれを許さなかった。 頼もしく、安心感のある背中。他人に守られるなど久しくなかった。本来ならば、国民を守るはずの騎士団長として守られることに 悔しくあるべきなのだが不思議とそんな気は起らなかった。気づけば伸ばした手は既に引かれていた。
その三人のやり取りを見ていたセリエルは苛立っていた。いつもならば、人間が自分を目の前にしたときは、あのエリーとかいう人間のように震えて自分の命に絶望するものだ。それなのに、あの男女はまるで恐怖を見せない。それどころか立ち向かおうとさえしている。男の方は笑みを浮かべているようにも見える。人間に舐められるなど屈辱以外の何ものでもなかった。
「やっぱりやめた。三人ともできるだけ苦しめて殺しやろう。そうだな。まずは四肢をもいでから……」
「おい、色々と御託を並べてないでかかってこいよ。こっちも暇じゃないんだ」
アレンは腰に手を当てながら話を折る。セリエルの怒気が最高に高まる。
「分かった、死ね」
セリエルはもっていた剣を構え、一歩前に出ようとした刹那、
「ウォーターバースト!」
ディーネが瞬時に魔法を唱えると、セリエルの体を水球が覆い爆発した。あたりが霧に包まれ、水滴が周囲にバシャバシャと散らばる。 やがて霧が晴れると、着ていた衣服がボロボロになり、全身から緑色の血を流すセリエルが立っていた。
「あらあら。苦しませないように一発で仕留めてあげようと思ったのに、なかなかお強いのですね」
「貴様、何者だ……」
ディーネはウインクで微笑み答える。
「雑貨屋エレールの看板娘ですよ」
「自分で言うな」
戦況を傍観しているアレンが即座にツッコミをいれる。
「ふ、ふ、ふざけるなぁぁぁ」
セリエルが叫ぶと、どす黒いオーラを放ち全身を包み込み目が真 っ赤に充血していく。傷だらけだった体もみるみる回復していく。
「これが俺の本気だ……」
そうつぶやくと瞬く間にディーネとの距離を詰める。ディーネも瞬時に水で作られた剣を右手に作り出し、セリエルの剣を受ける。
「接近戦は苦手なんですけどね」
そう言いながらも、次々と放たれるセリエルの斬撃を受けていく。しかしその勢いは凄まじくディーネも反撃するタイミングがないよ うにも見える。エリーはその戦いから目を離せずにいた。目の前で戦っている二 人は、確実に自分の力を凌駕していた。
「あの魔人、なかなかやるな。ディーネがあんな真剣に戦うのは珍しい」
エリーが戦いから目を逸らし、アレンを横目で見ると、腕を組んで立ち、腰に携えた剣すら握っていなかった。この男は私に俺とディーネでなんとかなると言っていたが実際にはディーネに任せっきりではないか。ディーネの実力を知っていてカッコつけていただけなのかとも疑い始めた。
「あなたは戦わないの? 危なくなったら私は加勢にいくわよ」
「止めた方がいいよ。ディーネの邪魔になる」
エリーはカチンときた。自分の実力がこの戦いに入り込む余地などないことは十分に分かっていた。しかし、何もせず只眺めているだけの男には言われたくなった。
「ぐはぁぁぁ」
エリーが戦いから目を離している間に戦況が動いた。ディーネが 何をしたか分からないが、セリエルが距離をとって、腹を押さえていた。
「ふう、思ったよりタフですね。アレン、このままじゃ時間かかり そうだからもう少し貰いますよ」
「あぁ。何なら久しぶりアレを見せてくれてもいいよ」
「バカ! 絶対に嫌です!」
エリーにはこの二人が何のやり取りをしているのか理解できなかったが、ディーネが目を瞑るとみるみる魔力が高まっているのが分かる。ディーネの全身を青いオーラが包みこむ。
「その魔力は、ま、まさか……」
セリエルはその姿を見ると何かに気づいたようだった。
「ふふ、気づくのが遅かったですね。ではサヨウナラ」
『エレメントジャッジメント』
神秘的な声色で魔法を唱えディーネが手を上空へ広げ、目を見開くと、上空に小さいく美しく青い球体が次々に現れる。その数は十を超え、二十を超え、数えきれないほどに増えていく。
「この俺様がこんなところで……」
セリエルは全てを諦めたように、上空を見つめている。
エリーがその幻想的な光景に目を奪われていると、急に自分の四 方を囲むように透明な薄い膜のようなものがはられた。
「これは、マジックシールド?」
「そこから出るなよ」
マジックシールドとは、名の通り魔法による攻撃を防ぐものだ。 使用者の力によりその耐久力は変化する。
ディーネはアレンが使用した魔法を確認し、広げた手を勢いよく前で交差する。 すると上空にある無数の球体が光を放ち、降り注ぐ。激しい爆音と光と、土煙、霧… …あらゆるものに視界や聴覚を阻 害されエリーには何が起こっているのか理解できなかったが、やがて視界が晴れていくと、エリーとアレン、そしてディーネだけが存 在し、緑で生い茂っていた周囲は、更地になっていた。きっとアレンのシールドがなければ巻き込まれていただろう。
ディーネが屈託のない笑顔で振り返る。
「アレン、終わりましたよ。褒めてください」
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