夢でしかいない君と僕

@youandme

『夢でしかいない君と僕』


第一章:すれ違う時間


僕はスマホの画面を見つめていた。

「今度、ゲームしようよ」

何度も送ったメッセージは、いつも既読がつくまで時間がかかり、返事が来ることも少なかった。


君は忙しいのか、それとも僕のことを避けているのか。

その境界線が見えないまま、僕は立ち止まっていた。


君は友達と話しているとき、よく笑う。

でも、その笑顔は僕の方には向いていない気がして、胸の奥が静かに痛んだ。


「時間が合わないだけ」

何度もそう言い聞かせた。

でも本当はもう、僕の言葉は君には届いていなかったのかもしれない。


すれ違いが積み重なって、僕たちの距離はゆっくりと、でも確実に開いていった。



---


第二章:夢のなかのりんご


夜、僕は夢を見た。


見知らぬ道路を歩いている。

空気は冷たく、どこかで犬か猫のような影が幽霊のような白い存在とぶつかり、音もなく消えていった。


場面は切り替わる。

昔の家の居間。

父の声が遠くから聞こえ、母が台所で夕飯を作っていた。

テーブルの上にはお盆が並び、ベビーカステラが20個、皮付きのりんご、そして名前のわからない果物が置かれている。


僕はそのりんごの皮を少し剥がした。

中には、見たことのない鮮やかな赤い果肉がぎっしりと詰まっていた。


「食べすぎないように」

子どもの頃の自分が、そう言っていたような気がした。


ひとくちかじると、果肉はみずみずしく、甘く、少しだけ酸っぱかった。

そしてその瞬間、君が現れた。


夢の中の君は、あの頃と変わらない優しい笑顔で、僕を見つめていた。


「久しぶりだね」


その声を聞いた瞬間、なにかがほどけるような気がした。

現実ではもう話せない。

だけど、夢の中なら……君はそこにいる。



---


第三章:届かない現実


目を覚ましたあとも、夢の中の君の声が耳に残っていた。


だけど現実は、何も変わらなかった。

返信は来ない。すれ違いは続く。


このまま僕の想いは、ただ過去の思い出になるだけなのか。

何度も問いかけては、画面を閉じた。


でも、僕はそれでも君を嫌いになれなかった。

まだ仲良くしたいと思っていた。


だから、今日もまたメッセージを下書きに残したまま、

「送信」のボタンを押せずに、ポケットへしまう。



---


第四章:夢でしかいない君


何度目かの夢のなかで、君はこう言った。


「ごめんね。時間が合わなかっただけなの」


僕は、うなずいた。


ほんとうはもっと早く話したかった。

遊びたかったし、笑いたかった。

でも現実では、それができなかった。


夢でしか会えない。

でも、夢の中だからこそ伝えられたことがある。


「君に会えてよかった」


そう言った僕に、君はただ静かに笑って、

やさしく「ありがとう」と言った。


そのまま君は、夢の中の光のなかに消えていった。



---


最終章:未来の先へ


季節が変わり、僕は君に連絡することをやめた。


君との関係は、夢の中で幕を閉じたけれど、

心にはあの赤いりんごのように、鮮やかな記憶が残っている。


傷ついたけど、後悔してない。

あの時間があったから、僕は今ここにいる。


過去の君は、僕の中でちゃんと生きてる。

そして、これから出会う誰かに、

僕はもう少し優しくなれるかもしれない。


だから、歩いていく。


夢でしかいない君と、

現実を生きていく僕。


その境界線を越えて、

僕は新しい未来へ向かっていく。


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