なくしもの

中学生の弟が、「日記をなくした」と言って泣いていた。


「たいしたこと書いてないけど、どうしても見つからないんだよ……」


家族みんなで探したけど、見つからなかった。


「ま、誰かに読まれても困るようなこと書いてないなら大丈夫でしょ」


母が笑いながら言った。


弟はしばらく落ち込んでいたけど、数日たった頃には元気を取り戻していた。


それから1週間後、俺の机の引き出しの奥から、なぜかその日記が出てきた。


(……え? なんで俺の部屋に?)


おかしいとは思ったが、気になって中を開いた。

最初のページには、こんな文字があった。



1日目:お兄ちゃんの部屋に入ったら、引き出しに何か入ってた。

2日目:夜中に起きたら、お兄ちゃんが寝言を言ってた。誰かの名前だった。

3日目:昨日のお兄ちゃんのパソコンの履歴を見た。あんな動画、見てるんだ……

4日目:お兄ちゃんのスマホ、暗証番号わかった。全部見た。

5日目:あのこと、バラそうかな。でも、お兄ちゃん優しいから、迷う。

6日目:やっぱり、ちょっとだけ、言ってみようかな……

7日目:お兄ちゃんのベッドの下、すごい。あんなの隠してたなんて……

8日目:お兄ちゃん、バレたくないんだろうな。だいじょうぶ、言わないよ。

9日目:でも、ちょっと怖いな。今日のお兄ちゃん、なんか目が笑ってなかった。

10日目:きのう、眠れなかった。なんか視線を感じて……

11日目:今日は、すこし変な音がして起きた。ドアが、ちょっとだけ開いてた。

12日目:………………

13日目:………………

14日目:………………

15日目:今日も、日記をかいてみる。でも、どこかにいる気がする。

16日目:だれか、たすけて。



日記は、そこまでで終わっていた。


弟に問いただそうと思って部屋に行った。

でもそこにあったのは、机と、ベッドと、まっさらな床だけだった。


母に聞いても、「え、弟……?」と、なぜか困った顔をした。


「……あんた、ひとりっ子じゃなかったっけ?」







《意味がわかると怖いポイント》

• 弟が書いた日記の内容は、兄(主人公)を盗み見していた記録。

• 兄にバレて、“消された”可能性がある。弟の痕跡は家から消えている。

• 家族(母)さえ、弟の存在を「なかったこと」にされている。

• 弟は「日記をなくした」のではなく、わざと兄の部屋に置いていた可能性もある。

• あるいは……**弟の存在自体が、“兄の妄想”**だったのかもしれない。

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