意味がわかると怖い話

ゆずの しずく

おかえり

「ただいま」


玄関のドアを開けると、いつも通り母さんが台所から顔を出して「おかえり」と言った。

ご飯の匂い。湯気。テレビの音。

全部、昨日と同じ。安心する。


「今日ね、数学のテスト、ちょっと難しかったかも」


「そうなの? でもあなた頑張ってるもんね。きっと大丈夫よ」


母さんはそう言って笑った。

優しい笑顔だった。……いつも通りの、ね。


俺は自分の部屋に行って制服を脱いで、ゲームを少しやってから、ご飯を食べた。

母さんのカレー。ちょっと甘口だけど、やっぱりうまい。

……全部、昨日と同じ。


「ねえ母さん」


「なに?」


「……今日で、七日目だよ」


母さんは少しだけ黙ってから、笑顔で言った。


「そうね。でも……もう少しだけ、ここにいてもいいんじゃない?」


「……うん」


俺はうなずいて、空っぽの椅子に目をやった。

父さんの椅子。今は誰も座っていない。

事故にあった、あの日からずっと。


俺も、あの日からずっと。








《意味がわかると怖いポイント》

• 「今日で七日目だよ」という言葉

→ 死者の魂がこの世にとどまるのは七日間という仏教の概念。

• 「全部、昨日と同じ」

→ 彼は何度も同じ“日”を繰り返している。

• 「父さんの椅子。今は誰も座っていない」

→ 父親は事故で亡くなっている。だが実は――。

• 本当に死んだのは“俺”のほう。事故の犠牲者は父ではなく息子。

→ 彼はそれに気づかず、母親の幻影と暮らしている。

→ “母親の言葉”も、実は彼の記憶と想像の中のもの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る