第22話 『プリクラは四人で(新京極都市伝説)』
新京極で、撮っちゃいけないプリクラがある――って、知ってる?
そう言い出したのは、大学のサークルの後輩、ヨシオだった。
夜の河原町の居酒屋、バイトの打ち上げ中。
酒もまわって、みんな「じゃあ肝試し行こうぜ!」ってノリになってさ。
「先輩、ちょうど四人いるし。マジで行きません? 有名なんすよ、深夜プリクラ」
“ちょうど四人”。
その言葉が、やけにひっかかった。
新京極は、夜になると空気が変わる。
昼間は人混みでごった返すアーケード。
けれど深夜0時を過ぎると、まるで見捨てられた箱庭のように静まり返る。
店はほぼすべてシャッターを下ろして、街灯の光が白く浮かび上がる中、
時々、風がビニール袋を転がす音だけが聞こえる。
その一角――かつてゲームセンターだった空きテナントの奥に、
一台だけプリクラ機が残されている、という噂。
それは「撤去忘れ」なんかじゃなくて、
“誰にも移動できない”らしい。
夜だけ光る。
四人で入って撮ると、一人だけ消える。
そんな話を聞きながら、俺たちはその場所へ向かった。
メンバーは、俺シゲル、ヨシオ、女子のヒナコ、リカ。
たしかに“ちょうど四人”だった。
古びた路地の奥、そこにあったのは本当に――プリクラだった。
筐体は明らかに2000年代の古いやつ。
だけど通電してる。画面も光ってる。
その場に立つだけで、背筋が冷えて、胸の奥がざわつく感じ。
ヨシオが笑いながら先に入っていく。
「いやー雰囲気出すぎでしょ! ちゃんと撮れたらSNSバズるな」
「やめようよ、マジで。なんか、いやな感じする……」
ヒナコが震えた声を出したが、リカが無理やり腕を引いて笑ってみせた。
「都市伝説とか信じちゃうタイプ? 可愛い~」
……俺は、足が動かなかった。
なのに、気づいたら中に入っていた。
覚えていないのに。
画面に「スタートします。はい、チーズ」と出たとき、
誰も何も言ってないのに、笑顔を作っていた。
まるで、誰かに“撮らされてる”ように。
ピカッ
フラッシュのあと、画面に写真が表示された。
――俺が、いない。
「……あれ? あんた入ってなかったっけ?」
ヒナコが言う。
リカは「フレームからはみ出てたんじゃん?」と笑った。
ヨシオは、じっとプリントされたシールを見ていた。
その顔が、青ざめていた。
「なあ……おかしい。俺、写ってるけど……目が、黒い」
彼が指さした写真。
確かに、そこに写るヨシオの目だけ、まっ黒だった。
白目がなく、瞳孔もなく、墨を流し込んだみたいに。
「……やっぱ出よう」
俺がそう言った瞬間だった。
突然、プリクラ機の照明が全部落ちた。
次の瞬間、鏡面になっていた画面に、五人目の姿が映った。
真ん中に、顔のわからない“何か”。
髪が長くて、着物のようなものをまとって、笑っている。
俺たち全員、動けなくなった。
その女が、口を動かした。
音は出ていないのに、はっきりと読めた。
「もう一人……必要よね?」
目が覚めたとき、俺は新京極のベンチにいた。
リカとヒナコもいた。
だが――ヨシオだけ、いなかった。
スマホを見たら、プリクラのデータは消えていた。
LINEのグループチャットも消えていた。
連絡先も、通話履歴も、消えていた。
――まるで、最初から存在しなかったかのように。
けど……自宅に戻って、ふと気づいた。
冷蔵庫に貼ってあった“普通のプリクラ”。
そこに写るのは、俺とリカとヒナコ――と、もう一人。
黒い目をしたヨシオが、
カメラ目線で、笑っている。
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