第5話 美術的剥製

 剥製というものをご存知だろうか。動物の標本のようなもので、死体の皮をはがして生前と同じ姿で保存する方法だ。中には内臓の代わりに詰め物が入っており、それは大抵脱脂綿やゴム、発泡スチロールなどといった柔らかい物質である。


 なぜ、こんな説明をしているかというと、目の前に剥製があるからだ。そう。女子生徒の剥製が。


 時は遡って数日前、俺たちのクラスは修学旅行の話題で盛り上がっていた。旅行用の資料を配られて、班を作り行き先を決めていたのだ。旅行先はヨーロッパの医療が発達している、とある国だ。俺達の班は、やれ行ったことがあるだの無いだのと騒いでいた。


 事件が起きたのは、授業が終わり昼食の時間になったときのことだ。皆、好きな場所で食事をしていると、女性の悲鳴が聞こえてきたのだ。何があったのかと声の聞こえた方へ向かうと、そこは寮だった。昼の寮内は暑いので普段は人が寄り付かないが、俺は気にならなかった。他の生徒もそうだったらしく、中には何人かの生徒がうろついている。出入口に向かって歩いている男子生徒に話しかけると、彼は青い顔で教えてくれた。

 「悲鳴が聞こえてきたんだが、どの部屋からだったんだ?」

 「ク、クラリスの部屋から聞こえてきたんだよ。俺は面白半分で部屋に入っちまったんだが、そこで見たんだ。ミイラだった。女の子がミイラになってたんだよぉ!!」

 彼はその場でうずくまり、ガタガタと震えていた。ミイラの女子生徒。凄いインパクトのある言葉だ。俺は興味が湧いて、彼女を見に行くことにした。


 噂の部屋の前に来ると、人だかりが出来ていた。12,3人くらいだろうか。皆が非日常の虜にでもなっているかのようだった。口をあんぐりと開けて、驚いた後は決まって推理をしだしていた。


 俺は、人の間を潜り抜け、ミイラと言われた女子生徒を見た。それは綺麗な剥製だった。恐ろしいとは思いつつ、つい見入ってしまっていた。綺麗な白い肌に、青い宝石のような目がはまっている。金色の髪は綺麗な糸のようにサラサラと頭部から背中までを覆っている。上半身はなにも隠すことなくされされて、白い乳房がさらけ出していた。エロティックさなど微塵も感じさせない、美しさだけがそこにあった。


 つい剥製に見とれてしまったが、これは事件である。彼女は何者かの手によって殺されてこの姿になったのだ。そこで問題がある。彼女は、どうやらクラリスらしいのだ。クラリスといえば、先生の指示に従って自室に籠っていたはずである。同室の生徒はおらず、本当に一人でいたはずである。つまり、これは密室殺人事件に他ならなかった。



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