第2話 訪れた非日常

 眩い光が顔を直撃する。どうやら、朝になったようだ。俺はベッドから降りて同居人を起こした。寝ぼけまなこで洗面所に向かうと、どこから悲鳴が聞こえてきた。

 「なんだ今のは」

 「廊下から聞こえたぞ。行ってみようぜ」

 俺は着替えてから、同居人と共に部屋の外へ出た。


 廊下では人だかりが出来ており、中々状況が見えなかった。周りの人を押しのけて前に出て、ようやく見えたものは立っている女子生徒だった。彼女は顔面蒼白で、壁に寄りかかってガタガタと震えている。彼女の目線の方向には、人の腕が見える。俺は駆け下りて腕の人物を見つけると、そこには虚ろな目をした女子生徒が血だまりの中で倒れていた。服装を見るに、俺より1つ上の学年の生徒だろう。顔は髪で隠れて片目しか見えないが、綺麗な顔立ちのように見える。一応、生存確認はしたが、脈は既になかった。

 「死んでいる」

 「きゃあああ!」

 後ろにいた女子生徒が悲鳴を上げて気絶する。俺は、額に汗をかきつつ人だかりに向かって声を張り上げた。

 「誰か、管理人を呼んできてくれ」

 「分かった」

 返事をしたのは、階段の下側にいたクライストだった。


 俺は、管理人やら警察に話を聞かれて見たことを全て話した。非日常に飢えていたので、少々興奮してしまったが多めに見てほしい。事情聴取から解放された俺は、今朝彼女が倒れていた場所を確認しにいった。そこは昨晩俺が帰りに使った北側階段だった。


 彼女の死因は転落死だったようだ。階段から落ちた時に階段の下に置いてあったダンベルに運悪く頭をぶつけたのだという。ダンベルの持ち主は彼女であったため、事故死とは言い難い状況だ。昨晩、最後に階段を利用したのは俺だったらしくて散々聞かれたが、そのときにダンベルなど見ていなかった。また、朝一番に階段を利用したクライストも聞かれたが、ダンベルなどは見ていないと言っていたようだ。


 俺は、自分が今疑われている状況にある上、持ち前の好奇心によりディムのことを調べていた。今回亡くなった女子生徒はディムという名で、年齢は18歳。成績は中の下で、趣味はトレーニングだったという。友達は、メアリィとクラリスで関係は良好だったようだ。誰かと揉めていたという話もないため、計画された犯罪ではなさそうだ。


 クライストの部屋で俺達はこの事件について話をしていた。

 「恨みというものは、別に友人間にだけ発生するものではないだろう。もしかしたら、ただぶつかっただけ、可愛い顔をしていただけでも起きる」

 「理不尽なものだな」

 「殺人の動機なんて、大抵はそんなものだろう」

 俺はふーん、と思いながら話を聞いていた。よくよく考えれば、アガサの話でも計画が念入りに組まれた犯罪ばかりではなかった。にしても、先程から顔色が一切変わらないこの男に俺は恐怖を覚えていた。自分が疑われているという状況なのになぜこんなにも冷静でいられるのだろうか。


 その後、ディムを殺害した犯人は結局見つかることはなく、事件は迷宮入りとなった。

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