第21話 11日目(日中)

 どうやらこの「世界」の1日の切り替えは、夜明けのタイミングだったようだ。何でそれが分かるかって言ったら、それはまぁ、太陽が水平線から出てきた途端に、海の様子が変わったからだな。

 一応夜中、恐らく日付が変わるだろうタイミングで各種魔法の杖(消耗品タイプ)は使っていたし、そこから作業を続けてギリギリ浮遊の魔道具と推力を発生させる魔道具を組み込んだ杖で、大幅に出力を上げる事には成功した。

 お陰で睡眠時間は短くなったが、まぁでもやって良かったって言うべきだろうな。何故ならその作業が間に合ったお陰で、今この船は海に接していない。海面の上1mほどの高さを、すいーっと滑るように移動している。


「…………」


 ちなみにその上で船に対して軽量化とか速度上昇とかそういう杖を使っても効果があるし、帆を張ってそこに真っすぐな風を当てると速度補助になるから、たくさん作った魔法の杖の効果は全く無駄になっていない。……いや、水の抵抗を減らす杖だけはあれか? でも空気の抵抗も減らす事になってる筈だし、無駄にはなって無いな。たぶん。

 なんだが、今は黙った状態で、各種杖をひたすら振り続けている。効果時間は加算されるように作ったからここまで振り続ける必要は、まぁその、本来なら無い。の、だが……。


「(エンカウントイベントが確定になってたのはまぁ予想してたけどよりにもよって領域変化能力持ちとかふっっっざけんな……!!!)」


 ……来ると嫌だなぁ、と思っていた、超大物。あの水竜を越える理不尽枠。その中でも特に別格の、一応ステータスはあるから理論値行動が出来れば倒せなくは無いよ、というアレに入る奴が出て来たんだよなぁ……。

 しかもその能力は、その周囲の環境を変えるというものだ。そしてその「周囲」というのが結構広い。ちょっと大きめの町ぐらいはすっぽり入るぐらいには広い。で、その環境を変えた先では、まぁ、大体の場合は侵入した相手に不利な条件になる訳だ。それはそうだな。だからこそ理不尽枠なんだし。

 そして、今出てきたこいつによって変化させられた環境は、というと。


「(飢餓の大海……! 海だから大丈夫だろじゃねーんだよ大バカ管理運営者が! せめて自分でテストプレイしてから実装しろ人間的クズ!!)」


 システム的に言うと、その中に存在する限り、あらゆるステータスに関して「捕食攻撃」を食らい続ける。つまり継続ダメージが全リソースに入るし、装備の耐久値も削れるし、バフ系魔法はその効果時間が短くなるって事だ。

 その名前が「大海」であるだけあって、「海」に触らなければその効果は大幅に減衰する。なおかつこの船は現在丸ごと結界で覆われているから、その影響は相当に減っている筈だ。にもかかわらずひたすら杖を振り続けているのは、その効果時間がそれでもさらに短くなっているからだな。

 もちろん世界樹の枝の皮から作った回復薬も定期的に飲んでいるから、ダメージは入っている。とはいえ、太陽が水平線から昇ると同時に海面の下に出現した巨大な影は、「海」に触れていないこの船には気付かなかったらしい。そうでなければとっくに死に戻りというかアバターをロストしているんだが。


「(とりあえずこのまま、音とかも立てないように静かにしたまま、今の速度を維持すれば、一応太陽が沈む頃には領域を抜けられる筈……)」


 というか「海」に触れていない状態かつあの出力の結界で防御した上でここまでダメージが通ってバフの効果時間が短くなるって、「海」触れていたら実質即死していたぐらいの強度が出てなきゃおかしい筈なんだよな。それを世間一般的には、負けイベントもしくは事故と呼ぶ。何故なら出現、遭遇した時点で助からないからだ。

 普通のゲームであってもお気持ちメールが大量に届くだろうし、もっと直球で文句の嵐が発生する案件だぞ。もちろん出現させる、エンカウントイベントに設定する、出現時の強さをここまで上げる、それらの操作自体は比較的簡単だが、ステータスの数字を見ればおかしい事には気付くはずなんだが。

 ……やっぱり単純に殺しに来てると見るべきか。というか、そうとしか思えないんだよな。絶対に仕留める、という殺意が無ければこうはならない。流石にここまでやっておいて数字の意味が分からないって事は無いだろうし。


「(ただそれすなわち、最初から生け捕りにするつもりが無かったって事なんだが)」


 やっぱり死に戻りというかアバターロストさせる事でアバター情報を奪う事が出来る、って事になるんだよなぁ……。

 が。ここまで殺意が高いと、なんか、こう、前提条件が違ってるんじゃないか、みたいな気もしてきた。

 もしかしてこれ、データ泥棒目的のウィルスと仮想現実、ではない、のか?

 ……まぁだとしたら本当の目的は何なんだって話だな。それはそう。

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