第22話 11日目(夜間)

 杖はたくさん作っていたし、水竜の角を、一番いいところではないといってもしっかり使っていたのが幸いしてか、どうにか日が暮れるまで持ってくれた。一応休憩の為にログアウトはしてたんだが、まともに休めた感じはない。

 ただ問題だったのは、日が暮れても推定「飢餓の大海」の範囲から出られなかったって事だ。つまりまだまだ杖を振り続けなきゃいけない。勘弁してくれ。こっちはデータじゃないんだぞ。いやまぁ「飢餓の大海」の強度を考えればその範囲がバカみたいに広いのもそれはそうとしか言えないんだが。

 かと言って、これ以上速度を上げる事も出来ない。速度を上げる手段がないっていうのもあるが、変に速度を上げると気付かれる可能性があるからな。日が暮れてもまだ気付かれていないのは、最初から「海」に触れていなかったうえで、一定速度を維持していたからだろうし。


「(流石に「壁」までずっと「飢餓の大海」が続いてるって訳じゃないだろうというか、それだと流石に色々持たないんだが……)」


 一応杖による各種バフが無くても、この船が海に落ちる事は無い。移動速度が落ちて魔道具にセットした水竜の魔石の消耗が本来のものに戻るだけだ。……とはいえ、ここまで使っても全く変化が見られなかった水竜の魔石ですら、日が昇って沈むまで、ゲーム内でちょうど半日で、1割ぐらい消耗してる。

 つまりこの水竜の魔石ですら丸5日しか持たないって事だな。それも、消耗品タイプの杖を文字通り湯水のように使って負荷を軽減した上で、だ。杖の数は大分減っているから、たぶんこの夜一杯で使い切るだろう。

 杖の効果でどれくらい負担が軽減されていたかは分からないが、それでもあの消耗速度からして、結構軽減率は大きかった筈だ。まぁ「そこにある」だけでダメージが入るっていうのが領域型能力の特徴だから、実際どうかは分からないんだが。


「(海そのものは静かだし、波にも変なところは無い。だから、領域の主が追いかけて来てる、って事は無い、筈……)」


 まぁもし追いかけてこられてたら詰む。なおかつ放っておかれるとある程度動くんだが、その方向がこの船と同じだったとしてもかなり厳しい。ランダムで動く場合はある一定の範囲から出ない筈なんだが、恐らくこれは「エンカウントイベント」での遭遇だ。

 その場合、イベントを引いた対象者が死に戻るか、イベントの時間切れでなければ、出現した危険生物は消えない。というかイベントの時間切れの場合、その場にただ放流されるだけって可能性もある。「イベントをきっかけに出現した」という扱いだったらそうなるんだ。残念な事に。

 ただその設定変更というか、そういうフラグにするにはそこそこ面倒な操作が必要だった筈だ。少なくとも気軽には触れない。チェック項目が5つはあった筈だから、うん、そこそこ面倒だな。少なくとも、こいつを「エンカウントイベント」の対象にするよりは面倒だ。


「(何もかもが雑で悪い意味の適当な管理運営者が、多少と言ってもそんな面倒な手順を踏むとは思えないというか、思いたくないが……でもこいつのロックを外して「エンカウントイベント」の対象にするぐらいはやってるからな……)」


 正直、微妙なところだと思う。だから、思えない、ではなく、思いたくない、だ。

 とはいえ実際はこの「エンカウントイベント」の時間切れ、推定丸1日が経過してみなければ分からない。もちろんそうでなくてもこの「飢餓の大海」から脱出できるなら問題ない。この全てを削って来る領域から抜ければ、水竜の魔石だって普通に持つだろう。

 ……削られた分で持たなくなった、っていうのも有り得るから、もし脱出する事が出来たら、まず真っ先に杖の補充と、疑似魔石を使って水竜の魔石に魔力をチャージしておこう。疑似魔石がいくつ必要になるのか分からないが、それでもそのまま転がしてるより、水竜の魔石にチャージしておいた方が魔道具の持ち的には良い筈だ。


「(世界樹の枝自体はまだあるから、疑似魔石はまた作れる。使い捨ての杖に使う分ぐらいはまだ余裕である。そもそも、回復薬は完全に余るぐらいあるし)」


 とりあえずはこの領域を抜けてからだな。いつ抜けられるか、ひいては、いつ安心してしっかり休めるかは、早くても脱出するまでもしくはまた日が昇るまで分からないんだが。

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