第20話 10日目(夜間)
夜になってもやる事は変わらない。ひたすら消耗品タイプの魔法の杖を作り続けるのみだ。まぁその方向は大分変わって、対象の軽量化、対象の空気抵抗の減衰、速度ステータス上昇、速度補正ブースト、対象に対して発動している補助効果の効果時間延長、という感じだが。
水竜はその大きさが大きさだった為、角を1体分使い切る頃には樽が3つもぎっしり埋まる程の杖が出来ていた。種類は色々だし種類ごとに分けているからそんな事にはならないが、量的には相当な本数を作ったと言えるだろう。船に乗っているのに操舵もせず作業に集中していたからな。
一応外を確認して、羅針盤を見て、方向がズレていない事は確認していたから大丈夫だ。何も無い海を同じ方向に移動していればいいんだから。……嵐の前の静けさ、と感じてしまったのは仕方ない。と思う。
「とりあえず、「船を飛ばして移動する」のに必要な魔法の杖は一通り作れたけど」
その上で今やっているのは、物を浮かばせる、浮遊の魔道具の修理だ。台車に取り付けていたのを回収してはいたが、全部合わせても流石に小さいとはいえ船一隻を浮かばせるにはちょっと出力が足りない。出力が足りないと魔道具が壊れやすくなるし、魔力も余計に食う。つまり魔石の消耗が進む。
もちろんこれも杖にして増幅すれば更にいいんだろうけど、その場合は浮かぶ力が強すぎて推力が足りなくなるかも知れないんだよな。もちろん帆で風を受けて進んでいる分も含めれば大丈夫だと思うんだが、問題は推力を発生させる魔道具が、そんなに数が無いって事だ。
壊れているのなら修理すればいいんだが、元から無いものはどうしようもない。だから杖にして増幅するならこっちが優先だ。
「水竜は3体だったから、どっちも杖にしてしまうという手段も、まぁあるにはあるとはいえ」
まさかここで船に結界の魔道具とその増幅用の杖を組み込んだことが引っ掛かるとは思ってないんだよな。そういうものとして組み込まれてるから、魔力の融通の為につなごうとすると、同じ形でないとダメになってるとは思わない。
つまり浮遊の魔道具と推力を発生させる魔道具を、杖を使って増幅しようと思うと、水竜の角と魔石を使い切るって事だ。いやまぁ、それが出来上がれば、それこそそのまま世界の端である「壁」まで到着できる可能性も出てくるんだが。
ただ水竜の角と魔石は貴重品であり、ここから先は不測の事態も十分に発生しうる。魔力量の多い魔石って言うのはいくらでも使い道があるから、もしこの先何かが起こって対処しないといけない時に無かったら、詰むかもしれない。
「……船ごとのショートテレポートすら使えるだろうからな、あの魔石があれば」
だから、出来れば水竜の魔石は使い切りたくないし、水竜の角も出来れば取っておきたい。とはいえあれ以上の素材は無い。少なくとも杖という分野においては。そして、他の手段を選ぶには、道具もスキルも、何より時間が足りない。
最悪夜中であっても日付が変わったらテーブルが変わる。その瞬間に「エンカウントイベント」が発生してもおかしくない。だから早く決めて作業に入らないと間に合わない、ん、だが……。
……あぁこれ、ラストエリクサー症候群だな。という事は、諦めて作るのが正解だ。たまに出てくるんだよなこれ。
「そもそも、今生き延びないと万が一も何も無い訳で」
そうだな。そういう事だ。よし、魔道具増幅用の杖を作ろう。まずは浮遊の魔道具から。
とはいえ、結界の魔道具と違うのは、魔道具自体の形だけだ。他は一緒だな。世界樹の枝はまだまだあるし。……この枝を繊維にして服を作ったら魔法スキル入らないだろうか。そういう補正があるんだよな。ファンタジープリセットそのままっていうのは分かってるし。
まぁそれにするには素材と道具が足りない訳なんだが。皮を煮て繊維を取り出すぐらいならまだしも、立派な木材を繊維にするにはちょっと鍋の大きさが足りないな。それをやってる時間も無いし。
「後から、あーしてればよかったとか、あれを用意してればよかったとか、そういうのはどうしたって出てくるものだ」
それにそうやって準備をしていたら、それこそ今全力で警戒してる大物に、島ごと沈められる、何て可能性もあったかもしれないしな。
少なくとも、ここまでの時点で、それぞれの瞬間で出来るベストは尽くしてきた。だからこのまま走り切るしかないんだ。
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