第四章「#生きてる限り、キミといたい」

わたしの目の前に、ほんとうに――澪が立っていた。




「……っ、うそ……でしょ……?」




校舎裏のプールサイド。


夏の空気がまだ生ぬるくて、


湿った風に髪がゆれてるのに、


その真ん中に彼がいて――


静かに、まっすぐに、わたしだけを見ていた。




「――来たよ、約束したから」




その声を聞いた瞬間、


全身の血が、逆流しそうになる。




「……なんで……来たの? どうやって、ここに……」




「たぶん、きみが“探し続けてくれた”から」




「……わたしが?」




「投稿、見てた。全部、ぜんぶ。


あのタグの下で、ぼくを呼んでくれた」




胸が、詰まった。


喉が熱くて、うまく言葉にならなかった。




だから、わたしは――走った。




「……ばかぁっ!」




気づけば彼に飛びついて、涙がとめどなく溢れていた。




「ずっと、ずっとずっと……会いたかったっ……!」




澪の腕が、そっとわたしを抱きとめる。




「……ぼくも、ずっとだった。


キミがいてくれなかったら、


もう誰も信じられなかった」




「……でも、いるじゃん……ここに……わたし……!」




「うん……もう、離さない」




その言葉が、


どれだけの夜を照らしてくれるか、わかってる?




ふたりで見上げた夜の空。


星も、風も、音すらないのに――


彼の体温だけが、あまりにもリアルで、優しくて。




「ねえ、澪」




「ん?」




「ここが夢でも、幻でも、わたし、もう後悔しない。


……だって、好きって、もう何百回も思ったから」




「じゃあ……言って?」




「……言わせてくれるの?」




彼はうなずいた。


そっと、わたしの頬を撫でるその手が、震えていた。




わたしも震えてた。


でも、逃げたくなかった。




「澪……わたし――、あなたのこと、好き。


世界でいちばん、大好き」




そして、唇を――重ねた。




ファーストキスよりもずっと、深くて、長いキス。


息も、鼓動も、ふたりでひとつになる。




「……好きだよ、りりあ。


もう、きみしかいらない」




キスの合間に、そう囁かれて、


わたしのすべてが、蕩けていった。




指先が、背中を撫でる。


服の布越しに感じる体温が、甘くて苦しい。




言葉よりもずっと強く伝わる気持ちに、


わたしの鼓動も、澪の鼓動も重なって――




「ここで……いい?」




「うん、ここでいい……澪となら……」




誰にも見られない場所で、


わたしたちはそっと寄り添い、


夜の中で、たしかに「ふたり」になった。




夜が明けるころ、


彼がわたしの手を強く握ってくれた。




「また、どこかに消えたりしない?」




「しないよ。


今度は、ちゃんと“世界”の中で、


きみの隣にいるって決めたから」




「……ほんとに?」




「ほんとに。だって、きみが“生きてる限り、そばにいたい”って思わせてくれたんだ」




涙が出た。


でも、もうそれは、悲しみじゃない。




嬉しくて、切なくて、でも温かくて。




「じゃあ……これからもずっと、ハッシュタグつけて投稿してもいい?」




「うん。“#大好きなキミと、いつまでも”とかね」




「やだ、くさい」




「えっ、くさいの?」




「でも……いい。ずっと、つけてく」




笑い合って、またキスをした。




この夏の夜。


この恋の始まりが、永遠になるように。

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