第三話あの時の

 医者と青年の会話で徐々に蘇ってくる記憶。青年は少しずつ感じていた。『この医者どこかで見たことがある』青年は記憶を完全には取り戻せていないものの微かに思い出しかけている。夕方になり日も暮れかけてきたころ。「また明日診察に来ますね」医者は静かに青年の部屋から退出した。青年は老婆に対して聞く。「そいえばなんでお呼びしたらいいですか?」老婆は青年をみる。少し野間の後「記憶がなくなる前はお母さんって龍沙は呼んでたよ。わたしの名前は幸子だよ。坂本幸子。」老婆は少し悲しそうな顔をしていた。青年は老婆の悲しそうな顔を見て咄嗟に言葉が出た。「お母さん」老婆は青年を見つめ固まった。「龍沙ありがとう。あんたは昔から優しい子だからね」老婆は少し嬉しそうに微笑みながら青年に語った。ふと青年は老婆の持っているものに気づく。「お母さんそれは何を持っているの?」老婆は手元を見る。「これはスマホだよ。スマホの中でもiPhoneっていうやつなのよぉ。高かったんだから…」老婆は青年に対して語っている。青年は老婆の声を聞きながらスマホを凝視していた。老婆が思い出したように言う。「そいえば龍沙もスマホ持ってたね。どこにやったのかな?」青年はベットの周りを見渡した。手元や机の上などにはそれらしきものは置いていない。老婆の方を見る。スマホの画面が目に入った。老婆と老爺の写真がスマホ画面のスクリーンには映し出されていた。その瞬間青年の記憶が駆け巡る。青年は全てを思い出した。「お母さん。俺の誕生日4月1日だよね?」老婆は青年を見て固まった。青年は老婆の方を何気ない表情で見ている。「龍沙、記憶、戻った、のかい?」青年は老婆に対して頷く。「でも普段の記憶が戻っただけでなんでこうなってるのかがわからないんだ。」青年は老婆に対して言った。老婆は泣いている。「よかったよぉ、よかったよぉ」老婆の泣いている音が部屋全体に響いていた。30分ほどたって青年が口を開いた。「お母さん俺が退院したらご飯にでも行こ。」老婆は泣きながら頷いていた。

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