1945年8月1日(水)

 美佐子は朝から落ち着かなかった。

 店先を掃き終えても、道行く人々の顔が気になって仕方がなかった。

 高崎から来たという人々の姿は、日ごとに増えている。彼らの目は、深い疲労と、言葉にならない何かを訴えかけているようだった。

 空はどこまでも青く、蝉の声が降り注ぐ。その穏やかな日常が、いつまで続くのか、美佐子には分からなかった。不安は、まるで胸の中で小さな塊となり、じわじわと大きくなっていくようだった。


 昼過ぎ、美佐子はふと、胸元に忍ばせた、夫からの手紙にそっと触れた。出征して以来、幾度となく読み返した、かすれた文字の羅列。紙の感触は冷たいのに、夫の筆跡から彼の温もりが伝わってくるかのようだ。

 もし、この街が焼かれたら、夫はどこへ帰るのだろう。手紙の向こうにある、見えない夫の姿を思い描く。

 夫が帰る場所を、何としてでも守らなければ。美佐子は、夫の言葉を胸に、静かに、しかし強く、心に誓った。

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