1945年7月29日(日)

 日曜の朝、正一はいつもより早く目が覚めた。

 昨夜、遠くから聞こえた低い地鳴りのような音と、それに続くけたたましいサイレンの音が耳に残っていた。それは、はっきりと高崎が空襲を受けた証だと、今朝のラジオが報じていた。

 爆撃機が数機飛来し、何発かの爆弾が投下されたという。街の一部は激しく燃え、遠く前橋からも夜空がわずかに赤く染まって見えた。2名の尊い命が失われ、何千もの人々が家を追われ被災したという報せは、前橋の人々の心に重く響いた。

 空は相変わらず青く澄んでいるのに、正一の心は鉛のように重かった。


 工場は休みだが、心は休まらない。正一は縁側に座り、油と鉄の匂いが染み付いた乾いた掌を見つめた。この手は、もう綺麗には戻らないだろう。かつて教科書をめくり、鉛筆を握っていた頃の、まだ何のシミもない指先が、まるで別人のもののようだ。

 遠くから、隣家のケンちゃんの甲高い笑い声が聞こえる。何も知らない子どもの無邪気な声が、今はただ痛ましかった。この街も、いつか、あの高崎のようになるのだろうか。

 爆撃された街の惨状を想像すると、正一の胸は締めつけられた。問いは、答えの見えない空に吸い込まれていった。

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