第2話 入部とナンパ
「すみませーん。誰かいますかー」
俺は今、何故か倉庫の扉の前にいた。扉には、ちゃちな看板がかかっており、同じくちゃちな文字で『ドキドキ☆ナンパ倶楽部』と殴り書きがある。
あの後、俺は物凄く頭を悩ませた。
ーじゃあ、入学式の後、倉庫に来てくんない?
詳しいことは、そこで説明するからさ。
あの男は、それだけ言って、校舎の中へと消えてしまった。
…ぶっちゃけ、行くか行かないか死ぬほど迷った。だって、こんなの誰が聞いても怪しい。勧誘とかされそうだ。
その後、かっっっなり迷った末、恩返しをするという約束を破るのは非スマートだという結論に至り、このドアを叩く事になったのだが。
もうすでに帰りたい!
薄汚れた倉庫を見上げながら、俺は嫌な予感しかしていなかった。倉庫というか、主にこの『ドキドキ☆ナンパ倶楽部』という看板が不安を煽る。
コンコン。
再度扉を叩いたが、依然として返答はない。
…よし、帰ろう!
俺が決心して振り返った、その時。
「あ、今日の子じゃん。マジで来てくれたんだ」
目の前には、あの、軽薄そうな笑みがあった。
「いや〜、来てくれるとは思ってなかったよ」
…今から、帰るトコだったんですけど。
「まあ、せっかくだしゆっくりしていってよ」
彼は、俺の目の前にお茶を差し出した。一応、飲んでみる。普通の麦茶だ。少しぬるい。
今、俺はボロボロのソファに座らされていた。ツギハギだらけで、随分と年季の入ったそれの座り心地は良いとは言えない。向かいには、同じく古い椅子に腰掛ける茶髪の男がいる。
それにしても、この倉庫は非常に散らかっていた。
とにかく、謎の家具や置物が所狭しと並んでいるのだ。その中には、いつ使うのか分からない骨董品が多くあり、その全てに薄く埃が積もっていた。
「俺は相原ひとね。よろしく。君は?」
「…俺は、雨宮蒼です」
相原が右手を差し出したので、俺はそれを握り返す。彼がそれを上下にぶんぶんと振るから、俺はバランスを崩しそうになる。
「おっと、ごめんごめん。…で、いきなり本題なんだけど…君、ナンパ倶楽部に入らない?」
「…」
予想していた中でも最も最悪な展開に、俺の帰りたさが募る。
「…いや、ナンパはちょっと…」
「え〜楽しいのに〜」
相原はからかう様に机に肘を付いて、俺を見上げた。俺は思わず少しのけ反る。
「はぁ〜君なら入ってくれると思ったんだけどな〜寂しいな〜」
そして、更に追いうちをかけて来る相原。
く…、恩返しはしないといけないし…。
でも、ナンパは非スマートだし…。
あぁ、もうどうにでもなれ!
「…わ、分かりました。入ります…」
「えぇホント⁉︎ 」
彼は、心底以外だというように目を見開きながら立ち上がった。その拍子に、座っていた椅子がガタンと音を立てて倒れる。
そして、その動きのまま滑らかに俺の手を取った。速い。ナンパで培った技術なのだろうか。
「嬉しいなー!これまで色んな人を誘ったけれど、入部してくれたのは君だけだよ!」
…え、じゃあ、やっぱ止めとこうかな…。
なんて、言えるはずもなく。
俺の学園&ナンパlifeが幕を開けたのだった。
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