第3話 綺麗
「落ち着いたか?」
「は、はい。すいません、服、汚しちゃって」
「何気にするな。君が無事ならそれでいい」
「そ、そうですか」
「ああ」
「…………」
「…………」
無言の時間が俺を襲う。
なんだこれ、めっちゃ恥ずかしい。
勝手にキレたあげく大泣きして、情緒不安定じゃん。
ただ、不思議と気持ちはスッキリしていた。
いつもの頭痛も吐き気もない。
あるのはただただ羞恥心だけだ。
「しゅ、峻!」
「は、はい。ってなんで名前呼び?」
「む、駄目だったか?私と君はもう他人じゃないだろう…」
そう言うと目の前の女性はまた煙草を吸い始めた。
恥ずかしがったらすぐ吸うな、この人。
って、そんなことどうでもいい。
今すぐこの空気なんとかしないと。
「いえ、名前呼びで大丈夫です。ええっと、名前は?」
「ん?ああ、すまない。まだ名乗っていなかったな。私のことは
「灯里ですか」
「ああ、灯里だ。ところで峻、君学校は良いのか?」
「へ?あっ」
そういえば、夏期講習があるんだった。
自殺するつもりだったから完全に忘れてた。
「やばい、完全に遅刻だ」
どうしよう、今から行ったらまだ受けれる授業は残ってるけど⋯
「そ、その峻がよければ、私に付き合ってくれないか?」
灯里さんは遠慮がちにそう提案してきた。
「勿論、無理強いはしない。峻も疲れてるだろうし、何より私達は初対面だしな」
「フッ」
「な、何故笑う」
「貴女は俺の恩人なんですよ?なのに遠慮してるのが可笑しくて」
「う、うるさい。それで、私に付き合ってくれるのか?」
「勿論。あなたに迷惑をかけた贖罪ができるなら」
「なんか重いな。まぁ良い。今から行くのは妹の墓だ」
「妹さんの」
「断ってくれても良いんだぞ」
「今更断りませんよ」
「そうか、ありがとう」
それから俺達は妹さんの墓に向かった。
その道中で色んな話を聞いた。
例えば、灯里さんが毎日あの廃ビルで煙草を吸ってるとか、噂の幽霊の正体は自分だとか⋯そんな他愛の話をしていたら妹さんのお墓についた。
お墓の前まで来ると、灯里さんは妹さんに向かって話しかけた。
「久しぶりだな、
気付けた…⋯
「お前の時は気付けなかった。でも、今日は気付けたんだ。それで、それでね⋯⋯」
灯里さんは何を言えばよいかわからない様子だった。
だが、俺はそんな灯里さんをフォローすることは出来なかった。
なぜなら、
【どうも(._.)】
俺の目の前には妹さん?の幽霊がいたからだ。
「え、ええ」
【私は灯里の妹、双葉といいます】
「ええ、知ってます」
どういう状況だ?
なんかもう今日でイベントが起こりすぎてる気がする。
【驚かせてしまい、申し訳ありません。ただ、どうしてもお礼を言いたくて】
「お礼?なんの?」
【姉を救ってくれたお礼です】
「救った?俺が?」
【はい。姉は私が自殺してからずっと抜け殻のような状態でした。毎日ここに来ては救えなくてごめんと泣きながら謝ってきました。その後も私が自殺した廃ビルの屋上でずっと私の幻影を追っていました。それこそ私と同じ目をしていたあなたを私だと思いこんでしまうほど。姉はずっと後悔していた、私を救えなかったことに。凄いですよね。悪いのは全部私なのに。でも、自分のせいで私が死んだと思ってる姉はどんどん壊れていきました。毎日、私に話しかけて、もう心が壊れる寸前、あなたが現れました。自殺を考えるあなたが。姉はずっと後悔していた。強引にでも話を聞けばよかったと、でもそんな機会は訪れなかった。今日、あなたと会うまでは。姉は4年前をやり直せたんだと思います、あなたのお陰で】
「俺はそんな大層なことはしてないですよ」
【あなたは姉に全てを曝け出した、自分の弱さも全て。姉にはそれが救いになったのでしょう。その証拠に今日の姉は以前の元気な姉になってる】
「そう、ですか」
【おっと、そろそろ姉の長話が終わる頃ですね】
「長話って」
【長話ですよ。本当、どうしようもないお姉ちゃんなんだから】
「でも、愛してるんですね。灯里さんのこと」
【まぁ、ええ。でも私はもう死んでるからどうしようも出来ない。だからこそ、私の代わりにお姉ちゃんをよろしくお願いしますね、峻さん!】
「ええ、任せてください」
そう答えると、双葉さんは消えていった。
「ん!ゆん!しゅん!おい、峻!」
「へ?」
「お、起きたか。立ったまま寝るな、びっくりしただろう」
「え、す、すいません」
「いや、別に怒ってはいないが⋯⋯やはり疲れていたか?」
「い、いや、そんなことないんですけど」
いつの間に寝てたんだ?
「そうか、それなら良いんだが。付き合ってもらってすまないな、お陰で妹に良い報告ができたよ」
そうやって笑う灯里さんは今までに見てきたどの女性よりも綺麗だった。
「っ、灯里さん!!!」
「ど、どうした峻。やっぱり嫌だったのか?私に付き合うの」
「綺麗です」
「へ?」
「綺麗です。灯里さん」
今までずっと自分の気持ちを隠して生きてきた。
友達にも、両親にも。
求められる人間であろうとしてきた。
でもね、灯里さん。貴女は俺に教えてくれた。
自分の気持ちを人に伝える大切さを。
だから俺は隠さない。
今、俺が貴女に抱いている感情が何かは分からない。
でも、きっと悪いものではないだろう。
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