第2話 慟哭
「あ、あの」
「ごめんなさい、ごめんなさい。私がしっかりしてたら貴女は死なずに済んだのに…………私がいじめに気付いていれば、ごめんなさい、ごめんなさい」
駄目だ、混乱している。
でも、それもそうか。
この場所はきっとこの人にとって後悔の場所なんだ。
妹を、大切な人を死なせてしまった場所。
そんな場所で俺は自殺しようとしてたのか………最低の人間だ。
自分の都合で人を傷つけた。
人に迷惑がかからないようにと行動して結局迷惑をかけてる。
「はぁ、なにやってんだろ」
自殺するにしてももっと別の所でやらないと。
楽になるんだ。
ちゃんと人の迷惑にならないところでやろう。
うん、そうしよう。
そうと決まればこの人を落ち着かせないと。
俺は先程より大きな声で目の前の女性に呼びかけた。
「俺はあなたの妹じゃありません!気をしっかり保ってください!!!」
「⋯え」
「俺は深見峻。あなたの妹じゃないです。落ち着いてください」
「あ、ああ」
俺に抱きついていた女性はしばらくボーっとした後、自分の行動が恥ずかしくなったのか、俺から離れる⋯ことはなく、しっかり片腕で俺の腕を握ったまま煙草を吸おうとしていた。
ただ、煙草を持つ手は震えていたし、顔は真っ赤だった。
恥ずかしいんだろうな。
気にする必要なんてないのに。だって、俺はすぐ死ぬんだから。
「すいません。手、離してもらっていいですか?」
いつも通りの笑顔を浮かべて女性に話しかける。
そう、いつも通り。
吐き気も頭痛も気のせいだ。
しかし女性は手を離す素振りを見せない。
「あの、手を離してほしいんですけど」
「駄目だ、手を離せば君は死んでしまう」
女性は既に恥ずかしさなど忘れたように返事をした。
「死ぬ?自殺のことなら大丈夫ですよ。先程の俺は正気じゃなかった、でも貴女に出会えたおかげで正気に戻りました。だから離してくれませんか?」
「駄目だ」
「駄目?なぜですか。そろそろ学校に行かないといけないんですよ」
「嘘だな」
「はぁ?貴女にそんなこと分からないでしょ!!!早く離してください」
「駄目だ」
「っ。そろそろ警察呼びますよ」
「君は自分の顔を鏡で見た方が良い」
「か、顔?」
「今にも泣きそうな顔をしているぞ」
泣きそうな顔?何を言っているんだこの女は。
俺はいつも通り笑顔で…………あれ、なんで水が?
「それに、君は正気じゃない。さっきから顔に書いてあるぞ。早く楽になりたい、早く死にたいとな」
「…………」
「そんな状態の君を放っておくわけにはいかない。君の身に何があった。良ければ私に話してくれないか?他人に話せば楽になるだろう」
「………さい」
「五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い」
「なんだよ、さっきまで混乱してたくせに。放っておいてくれよ、赤の他人だろうが!!!!」
「ち、違う。私は」
「分かったような口聞くなよ!!!!何も知らねえくせに。もう俺は楽になるんだよ、今更なんだよ!!!!!!!!!!!」
「離せよ」
「離さない」
「っ、はな「離さない!!!!私はもう離さない」
「なんで、なんでそんなに構う。なんで俺を助けようとするんだ、赤の他人だろうが!!!!!!!なんだ?偽善か?だったら要らねえよ。早く手を離せ」
「だったら⋯」
「あ?」
「だったら何故振りほどかない。君の力なら振りほどけるはずだ!!!!それをしないということは君が助けてほしいと願っているということだ。私は君に手を振りほどかれるまでこの手を離すつもりはない!!!!!!!!」
「ああ?そんなもんすぐ振りほどいて、振りほどいて⋯⋯⋯あれぇ?なんで?」
「ほら、振りほどかない」
そう言うと、目の前の女は俺を抱きしめてこう言った。
「頼む。私に話してくれないか?君の身に何があったか」
やめろ
「私に分けてくれないか?君の辛さを」
やめろ
「私は君の味方だ」
今更優しくするなよ。
「頼む、峻」
もう、諦めたろ。
「私に、君を救うチャンスをくれ」
「お、俺は………」
俺は全てを打ち明けた。
家族のこと、学校のこと、全部。
「これが俺の悩みだよ、くだらないだろう?」
そう、くだらない。
貴女の妹のように直接傷つけられたわけではない。
ただ、俺の弱さが原因だ。
だから、俺を罵ってくれ、もうこれ以上優しくしないd
「え」
「よく頑張ったな、峻。辛かっただろう、苦しかっただろう」
「なんでぇ、優しくするの」
「峻はよく頑張った、よく耐えた」
「やめて、優しくしないで」
「だから今は、思いっきり泣いていんだ、思いっきり叫んでいいんだ」
「う、うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん。苦しかった、辛かったんだ。でも、我慢してた。所詮くだらない悩みだって、俺が弱いだけだって、でも、そう思っても辛いものは辛くて。誰にも相談できなくて、誰も気付いてくれなくて、ちゃんとしなきゃって。」
「ああ」
「でも無理だった。無理だった。だから死のうとした。でも、死のうとしたら貴女に迷惑をかけて、俺は最低の人間なんだ」
「そんなことない。峻は立派な人間だ」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん」
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