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 懐かしい職場に人はほとんどおらず閑散としていた。箕島は形式的に一礼するとまっすぐに窓際へ向かった。

「ご無沙汰してます」

「おー、待ってたわ」課長の鈴木はそう言って額の汗を拭いながら顔を上げた。鈴木はにこやかに二人を迎えたが、箕島は硬い表情を崩さなかった。だがそれも折り込み済みらしく、鈴木は何事もなかったかのように話を続けた。

「見ての通り人が少なくてさあ、困っちゃうよ。ほら連続強盗犯の犯人の件で」

「そういえば三日前に大捕物がありましたよね」口を開かない箕島の代わりに加藤が答えた。

「そうそう井土ヶ谷の駅前で。参ったよ、まさか帰宅ラッシュの時間帯にかち合うとは思ってなかったからさあ。それもあって人手が足りないのよ」

「インフルエンザじゃ大変ですよねえ、熱でフラフラになりますしねえ」

 鈴木と加藤は澱みなく世間話を続けた。

「──それで? どうして俺達が呼ばれたんすか?」

「箕島くんはせっかちだねえ。カップラーメンは三分待てない派?」

「あ、先輩は待てないですね。食べてるうちに三分経つからいいって」

「そんなことより何が気になったんすか? 気になったことがあったから呼ばれたんすよね?」

 鈴木はすぐには答えず机の引き出しから資料を取り出した。調書だった。箕島と加藤が渡された資料よりも厚く詳細が記されているようだった。

「簡単な資料は読んでくれた?」鈴木の問いに二人は頷いた。それをみて鈴木は満足そうに続けた。「まあねえ、あれ以上のことは特にはないんだけどね」

 そう言って手にしていた調書を箕島に手渡した。

 箕島は鈴木の真意を測りかねていた。あれ以上のことは特にないということは、何か決定的な証拠が出たわけではないということだ。課長は一体何に引っ掛かっているのだろうか。

「脳梗塞と心筋梗塞を同時に発症することはあり得るって医師(せんせい)は言ってたけどねえ。とはいえ死亡推定時刻に同じ家にいたのに、気が付かなかったというのがどうもね」

 朝、起こしに行ったら気づかないうちに亡くなっていたというのは珍しい話ではない。だが鈴木の口調はそうではない可能性を含んでいた。

「詳しい話を聞いてから判断して報告して欲しいんだよね。あと三十分くらいしたら来るから」

「来るからって、誰がですか?」

「そりゃ第一発見者に決まってるよねえ」鈴木は何をおかしなことをと言わんばかりに呆れたような口調で答えた。

「は? なんで呼んでるんですか?」

「なんでってまだ解決してないからでしょ。そういうことで頼んだから」

「はあ」箕島は仕方なく曖昧に返事をした。

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