第27話 リリアと肝試し
拝啓、地球のお父様、お母様、お元気でしょうか。私はルーリィとして、そこそこ元気に暮らしています。推しのクロリンデ生存計画は今の所順調で、彼女が悪魔になることなく、無事夏休みを迎えました。今は仲間達と肝試しの最中です。
「うーん、やっぱホラー仕様の景色……」
現実逃避を終え、私は改めて廊下の窓から真っ赤な空を眺めた。ゲーム画面で散々見ていたのに、実際に体験してみると、周囲のぴりぴりした空気とかが全然違う。4D映画の人気が出るのも、よく分かるなあ。想定通り、私はこのイベントでもちゃんと動けるみたい。クロリンデは白魔法を使えないから、悪魔の魔法のせいで眠っちゃってるだろうな。
悪魔の魔法を打ち破るには、白魔法の才能が必要。特に凄い素質を持っているリリアが特定の誰かと合流したいと強く望む事で、白魔法は無意識に悪魔の罠から二人を守る盾となる。後は二人で協力して……というのがイベントの流れだ。
ノーレスルートで明かされるんだけど、肝試し前に配られたブローチには彼の魔法が仕掛けられているんだよね。白魔法の力を増強させる効果らしく、リリアが念じて誰かと合流できるのもこれのお陰だとか。流石は賢者、便利キャラだ。試しにぎゅっと握ってみると、ほんのり白く発光した。最初に魔法を使えた時は、感動したっけ。今となってはファンタジー要素にも慣れたもんですよ。
「うーん、誰を呼ぼうかな」
エディトはクロリンデの婚約者だから論外、として。シエルかトラヴィス……頼もしそうだけど、既に結構仲良くなってる気がするからなあ。クロリンデルートを目指しているので、関わりすぎて別ルート入りするのは避けたい。ヒノは、このイベントだけはちょっと遠慮したい。イベントの仕様上、ちょっと踏み込んだ展開というか、若干殺伐としちゃうからなあ。ノーレスはヤダ。ルートに入っても始終リリアを揶揄う悪い大人って感じで、あまり関わりたくないんだよね。エミリオはサブ攻略キャラだから、このイベントには不参加。白魔法の素質もないし、呼んでも会えないだろうな。リデルはキャラとしては結構好きだけど、ゲームと違って全然私と関わってないんだよね。クロリンデが悪魔令嬢になってないから、その分忙しいのかも。
「そうだ、クロリンデ様!」
イベントは、攻略したいキャラと過ごすもの。ならクロリンデ一択。素質がなかろうと、リリアパワーでどうにか守れるかも。ブローチを握り念じると、飾り部分が光を帯びる。光が周囲を明るく照らそうとした時、ふと不安がよぎった。
「……呼んで、いいのかな」
本来このイベントは、白魔法の素質を持つ二人で協力する流れ。クロリンデは悪魔の魔法に対抗できない。むしろ逆に、悪魔堕ち展開に繋がるかも。うーん、でも悪魔の罠で意識を奪われている方が危険な気もする。やっぱり呼んだ方がいいかな。
でも、また鬱陶しいって思われたらどうしよう。
クロリンデが私を厄介者扱いしている事位、気付いてる。最初は特にひどかった。まあ突然現れて、乙女ゲームとか異世界転生とか悪魔堕ちとか言われたら、私だってドン引きする。でも推しキャラを助けられるかもって思いついちゃったらもう、居ても立っても居られなかった。こうなったからには、意地でもクロリンデを救済してみせるって、燃えていた。
そうでないと、私は、何のために、こんなところに。
「あ、あれ……」
白い光が弱弱しく明滅して、消える。雑念が混ざっちゃっていたからか、ブローチから輝きが失われる。自分のやる気も、一緒に萎んでいったみたいだった。やっぱりクロリンデを呼ぶの、今回はやめようかな……。
代わりに誰を呼ぼう。もう誰でもいいかな。ゲームでは一応、誰も呼ばない選択肢がある。その場合、ランダムで選ばれた相手と合流するんだよね。これで現状初対面のリデルが来たらリアクションに困る。でもどうなるかは見たいかも。レアイベを見てみたくなるゲーマーの性がうずく。いやいや、ゲームにない展開なんて来たら対応に困るから。
「ええい、誰でもいいから来―い!」
悪魔の誘惑を振り切りつつ叫ぶと、ブローチが再度弱弱しく光った。横の空き教室の中が一瞬光った気がして、ドキドキしつつ中を覗いてみる。
「あ、あれ……リリア? よかった、無事だったんだね」
うっわ、エディト・ローエン。よりにもよってクロリンデの婚約者が来ちゃったよ。彼とのフラグは絶対折るって宣言したのに、エディトと好感度が上昇するイベントをクリアしないといけないの!?
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