第55話 確信する者

 

「せめて殺戮宣言が本気なのかどうか問いただしに行くべきじゃないか? て考えてる顔してる」

 ホウジョウが相変わらず何を考えているのかよくわからない顔で、ケイに言った。

 心を読まれた。それも一字一句正確に。

 本当になんなんだ、こいつ。

「それも危険。行くにしても、あの子がトゲの人の元に行かなかった、そう判断してからでも遅くない。

 わざわざ行くこともない。

 あの子も誰もトゲの人の元に行かなければ、トゲの人は自分の足を使って探すだけ。

 ボクたち以外の動ける誰かをトゲの人が倒してくれれば終わり。

 ボクたちが見つかって逃げられそうにない時だけ、トゲの人と戦えばいい」

 確かにそれが一番合理的だと思う。リスクが小さく、生き返られる可能性が高い。

 だけど。やっぱり。

 両親が命の危機に瀕するかもしれないのに、何も行動しなくていいのか?

「両親が命の危機に瀕するかもしれないのに、何も行動しなくていいのか?」

 また一字一句正確に心を読まれた。

「どうしてもケイが行くなら、当然ボクも行く。ボクだけ生き返っても意味ないから」

 ケイ1人では、100%カムイにやられる想定の発言だ。

「2人で行ったところで、2人ともやられるだけかもしれない。けど、残り人数次第では、どちらか1人やられた時点で戦いが終わって、残った1人は生き返ることができる。

 さっきも言ったけど、ボクだけ生き返っても仕方がない。ケイがやられてボクが残ったら、ボクは生き返りを拒否する」

「おいおい!」

「ボクがやられてケイが生き返るならそれもいい。ベストではないけど、ベター。

 ボクは生き返るなら、あくまでもケイと2人。

 それを踏まえてもらって確認する。

 トゲの人のところに行く?」

 そこまで言われちゃ。

 ケイの不安を晴らすためにせっかくほぼ生き返りが確定しているホウジョウを巻き込むわけには行かない。

 それは言い訳かもしれない。

 いや、言い訳だ。

 グダグダ言っていたけど、本当はカムイのところに行かない理由を探していた。

 行かなくてはいけないと思っていたが、行きたくないとも思っていた。あの地面からいきなり生えてくる恐るべきトゲと戦いたくないから。

 自分は本当にどうしようもない。自分1人ではろくに決断できない。 

 こうなったら覚悟を決めるしかない。生き返ったカムイが暴れたら、その時は止める覚悟を。

 生き返ったら忘れてしまうのだけど、今だけでも覚悟するしかない。

 しかし、こいつ、なんかすごい重たいことをさらっと言っているな。

「それにしてもお前、完全に瞬間移動の子がカムイに勝てない前提で話をしているよな」

 あの子がカムイを見事打ち倒すとは微塵も考えている様子はない。

「だって勝てないよ」

 ホウジョウはあっさりと言った。

「あの子は普通の女の子だろうから。

 あのトゲの人は普通じゃないから」

 普通と、普通じゃない。

 ケイも確かにカムイには普通ではないものを感じた。

「本当にあの子がカムイのところに行くと思うか?」

 ホウジョウが言うカムイの元へ無理に行くことない理由は、あの子にだって当てはまるのだ。単純にカムイを恐れて行けないことだって考えられる。

「さあ」

 とホウジョウは曖昧に返してから、

「ボクがあの子の立場なら行かない」

 きっぱりと付け加えた。

「ケイが生きているとして、その危機かもしれなくても」

 意外に感じた。

 こいつなら、『ケイのために命を懸けるくらいなんてことない』と言い出すと思っていたのに。

「本当にどうしようもないと判断したら、ケイのために命を懸けるくらいなんてことない」

 言い出した。前提条件を除けば、一字一句変わらず正確に言い当ててしまった。

「だけど、今はまだどうしようもない時じゃない。

 何度も言うようだけど、何事も起こらない可能性だってある。

 もし、生き返った後、本当にトゲの人が暴れ出して、ケイに危機が迫っているなら。その時は命を懸けて戦うけど」

 お前、死ぬほんの少し前に、俺に一目惚れしたんだよな?

 事故に遭って、病院で目が覚めて。何者かが不思議な力を使って殺戮を起こしていて。自分もどうやら太刀を出す力を持っていることに気づいて。

 それで俺が危ないとなったら、命を懸けるのか。

 意識を失っていたたお前主観だと、ほんのついさっき一目惚れした相手のために

 するんだろうなあ。こいつは。

 あの子は一体どうするんだろうか。

 カムイの言うことを全て鵜呑みにして行くのだろうか。

 ホウジョウと同じように考えて行かないのか。

 わずかにであっても、『お兄ちゃん』が危険に晒される可能性があるなら、カムイに挑むのか。

 あるいは、カムイを恐れて戦いに行けないのか。

 そうだとしても仕方がない。

 ケイは今は待つと決めたのだ。

 しばらくは動かない。

 ホウジョウの言うように、瞬間移動の女の子がカムイの元に向かわなかった場合、アイツは諦めて誰でもいいからと探し始めるだろう。

 その時、迎え撃つ準備くらいはしておこう。



   

「本当はよぉーー自分でぶちのめしに行きたいところだがよぉーーこんな体じゃぁなぁーー」

 地べたを這いずれるだけ這いずって逃避し、限界が来て動けなくなっていたカンタは、カムイの殺戮宣言を聞いて1人でブツブツと切れ切れに喋り出した。

「お前に任せるぜぇーーオチアイぃーー

 行くに決まってるよなぁーーわかるぜぇーー

 俺にもよぉーーお兄ちゃんじゃないけどよぉーーお姉ちゃんがいるからなぁーーうるさいのが3人もよぉーー」

 カンタナツノはゲラゲラと笑った。血をゴホゴホ吐き、激痛に喘ぎながらも。

「悪いなぁーーおかげで希望が見えたーーオチアイがトゲのやつと引き分けてくれればよぉーー

 そうなりゃーー

 ハザマぁーー我慢比べと行こうぜーー

 どっちがより長く持ちこたえるかーー

 勝負だ」

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