第43話 捜し出す者
ケイは、ホウジョウイチズと名乗る少女とともに少し移動して、適当な建物に身を隠して、対話を始めた。
見ず知らずの女子がなぜ自分の名前を知っているのかと不気味さを感じてはいたが、助けてもらったことは確かなのだ。少なくとも敵ではなさそうだし、話くらいは聞くことにした。
やっと来てくれた、仲間になってくれるかもしれない相手な訳だし。
ケイはまず確認した。
「なんで、お前、俺の名前を知っているんだ?」
「え?」
「え?」
「ボク、キミの名前知らない」
「え? だってさっきケイくんって」
「そうか。キミ、ケイくんって言うんだ」
ホウジョウはケイの衣服についたKの文字を指す。
「KだからKくん。多分イニシャルかなって。名前わからなかったから、とりあえずそう呼ぶことにした」
わかってみれば、なんてことはなかった。
わからないのはこの少女がケイのことを危険を冒して助けてくれたことだ。
「なんで、俺を助けてくれた」
「好きだから」
「え?」
「ここに来る前、一目見て、ビビビッと来た。だから、これまで探していた。危ないところだったから助けに入った」
つまるところ、一目惚れらしい。
事故が起きる前に初めてケイを見て、恋に落ちたらしい。
いやいやいや。待て待て待て。
そんなことがあるのか?
死ぬ直前に一目惚れした?
だから、ケイのことをこれまで探し回っていた?
危ないところだったから、身を呈して助けに入った?
人形のような顔は無表情で、声の抑揚に乏しいが、いたって真剣に本気で言っているらしい。
「ケイって、漢字でなんて書くの?」
ホウジョウが訊いてきた。
「敬うという漢字で敬だよ」
「ふうん。ーーホウジョウケイ、いい」
なんでもう結婚することになっているんだよ! なんで俺がそっちの苗字名乗ることに決まってんだよ!
こいつは思い込みが強すぎるのではないか。ストーカー気質というのか。
だけど、今この状況では自分に味方してくれる子がいてくれるのは頼もしい。変な子ではあるのは間違いないが、悪人というわけではないし、無碍にもできない。
ホウジョウは、これまでケイを見つけ出すまでの苦労話を始めた。
「最初は1人でケイくんのことを探すつもりだった。
ケイくんが何人で行動しているかわからないから。
合流の可能性を上げるためには1人の方がいいと思った」
だけど、スタート地点で一緒だったカサイヒョウコという女の子が、仲間にならないと攻撃するとほのめかしてきたので、一旦チームに加入するしかなかった。
「とにかく隙あらばチームを抜け出したかった。ケイくんのことを探しに行きたかった」
話が進むうち、ネギシヨシユキという少年の能力【手投げ爆弾】で5人組を襲撃したことに触れられた。
ケイはギョッとした。
自分たちを襲った爆発の正体が判明した。目の前にいるケイに一目惚れしたという少女が、不本意であろうと襲撃の当事者たちの一員だった。
「オレ、そのチームの中に居たんだけどーー」
ケイは恐る恐るホウジョウに、彼女の所属していたチームが襲撃した5人の中に自分がいた事実を告げる。
「え?」とホウジョウは驚きの声を上げた。
「いたの?」と確認してくる。
「いた!!」とケイは声を張って答えた。
「気づかなかった」とホウジョウは頭を掻く。
「なんでだよ!!」とケイは突っ込んだ。
「メガネ忘れたから。よく見えなかった」というのがホウジョウの返答だった。
「忘れるなよ! そんな大切なものを!」
そのせいで自分たちは襲われたのだ。
「そこまで目が悪いわけじゃないし。少し離れたものが見にくいくらい。
でも、あれ? ケーくんと同じ服装の人いなかったような」
「ーーいつ敵に出くわすかと緊張していたら、体が熱くなって汗かいて、上着を脱いでいたんだよ」
「それじゃ、気づかなくても仕方がないや」
仕方がないことないだろう!
なんてことだ。
ケイたちのチームが瓦解したのは、ホウジョウのうっかりが原因なのだ。
ホウジョウがケイの存在に気づいていたら。5人の中にケイはいないと誤認さえしなければ、彼女はネギシという少年が爆弾を投げるのを止めていたはずなのだ。
そうなっていたらそうなっていたで、その後少々ややこしいことになっていただろうが。
すでに、5人で行動しているケイたちのチームにホウジョウが入る余地はない。
その場合、ホウジョウはどうしていたのか。
仲間であるはずのネギシの妨害をしたら、カサイヒョウコはどうしたか。
カサイたちとケイたちのチームで開戦してしまった場合、ホウジョウはケイたちに味方をしただろうし。
「もしケーくんたちが5人で行動していたら、こっそり追跡するつもりだったんだけど」とホウジョウは言う。
「ケーくんたちのチームからケーくん以外での脱落者が出るかもしれないし。ケーくんが危なそうだったら、助けに入るつもりだったけど」
「オレたちのチームが順調に勝ち残っていた場合、どうするつもりだったんだ。お前と合わせて6人が残ってしまった場合」
「そんなもしもの話をしても仕方がない」
そこまで深く考えていなかったのか。それとも、皆で生き返るために残り6人になるまで苦楽を共にしたケイの仲間を攻撃するつもりだったのを誤魔化しているのか。
結局ホウジョウは、自らの重大なミスに関して「失敗失敗」と言って済ましてしまった。
「ケイくんが無事だったからよし」と。
「ネギシくんが暴投してくれて助かった」とさえ口にした。
ケイは、一時的に仲間だったネギシという少年の失態への感謝を言葉にするホウジョウにドン引きしていた。
本当になんなんだ、こいつは?
悪気があるわけでもないらしいのが、逆に恐ろしくもある。
「カサイさんがロープの人に引っ張られている時、チャンスだと思ったから離脱した」
「でも、それって裏切りじゃ」
「チームに入るとは言ったけど、チームを抜けないとは言っていない、カサイさんも言っていた。嘘は嫌いだけど、相手に勘違いさせるのはいいみたいなこと」
「お、おう」
こいつやっぱりなんかちょっと怖い。
色々聞いているうちにあることに気づく。
「待て、その話からすると、カサイってやつが仲間にする候補として考えていたお前らが一度襲ったチームの残存者。それって俺が含まれていたことになるんじゃないか?」
「え?」
「そいつの目論見通りに行けば、お前、俺と合流できたんじゃないか? 人探しに向いた能力の持ち主もいたわけだし」
「本当だ」
ホウジョウの認識では、あの5人の中にケイはいなかったのだから、カサイの考えは望ましいことではなく、むしろとっととこのチームを抜け出したいという気持ちを強くする方向に働いていたのかもしれないが。
カサイたちがケイを見つけ出す展開になっていても、イワカベ以外の安否が不明な以上、自分がどういう選択をしたのかもわからない。
イワカベトウカが、ホウジョウを半ば強引にチームに引き入れたカサイヒョウコの火炎によって焼かれてしまったことは判明していた。そのことでホウジョウを責める気にはならなかった。
不可抗力として、ケイは受け入れるしかない。この戦い自体が不可抗力として受け入れているものなのだ。
ほかの3人のこともほとんど諦めてしまっている。1人か2人残っている可能性もあるが。バラバラになってしまったところをイワカベのようにそれぞれ襲われて脱落してしまったと考えておいた方がいいだろう。
ケイたちのチームを爆弾で襲撃することを止めなかったのはネギシヨシユキの暴投によって失敗したのだから、結果オーライと軽く考えているイチズも、ケイの仲間だった者が不本意とはいえチームとして行動していたカサイによって焼かれる結果になったことは少し気にしている風だった。ケイが気落ちしている様子だったからかもしれない。
ホウジョウはちょっとずれているが、罪悪感を一切感じないほどに頭のネジが外れてはいないらしい。
ホウジョウはなるべく掻い摘んで話を終える。それでもそこそこ時間はかかったが。
話を聞き終えて、ケイは考える。自分がこれからどうするかを。
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