第44話 動き出す者
ホウジョウは変なやつではあるけれど、ケイが好きなのは嘘ではないらしい。そんな嘘をつく必要があると思えないし、
うーん。
変なやつではあるが、1人でいるよりはいいのか?
しかし、彼女と行動を共にするとして具体的にどう動くか。
また、籠城、引きこもりか。
それとも、動き回るのか。
ホウジョウは行動するつもりでいた。
「生き返るには、ただじっとしててはダメ。
1人なら隠れてても運良く勝ち残れることは考えられる。1人だと運良く勝ち残れることに賭けるしかないと言った方がいいけど。
2人になった以上は、積極的に行動するべき。
漁夫の利を狙って、結局タイムオーバーなんてことにならないためにも。
これまでは、ケイくんと合流しやすいように1人だった。合流した今、その縛りはいらない。
ケイくんの無事を確かめるまでは不要な戦闘は避けてた。それも終わり。
まず仲間になってくれる人を探す。それから勝ち残りを目指して戦う。
なんとか逃げ延びている間に、ほかの人たちが潰し合ってくれるのを期待しても、最終的にボクとケイくんの2人と、5人チームだけが残るなんてこともある。
そうならないように、早めに動き出した方がいい。
仲間になってくれそうな人なら、心当たりある」
「本当か?」
ケイは期待して聞いた。
うん、とホウジョウは頷く。
「話せば長くなるけど。強敵に出くわして苦戦している時に逃がしてくれた人がいた」
「短いな!」
「あれ? 本当だ」
「いや、状況とか苦戦した相手とか能力とか、詳しく説明したら長くなるんだろうけどよ」
ケイは、とりあえず強敵から逃がしてくれたという人がどんなやつなのかを尋ねた。
「腕が六本ある男の子」
腕が六本。生まれつきなわけないから能力なのだろうが、想像すると不気味だ。
「すごくいい人」とホウジョウは言う。
「シドウマモルに苦戦しているところを助けに入ってくれた」
「シドウマモルって空手の?」
「そう」
あの有名人もこの灰色の世界に来ていたのか。つまりは死んでしまっていたのか。
どれだけ空手が強くても、大事故の前に無力ということか。諸行無常を感じる。
「ーー腕六本の人がシドウマモルに殴りかかった後、3人で睨み合いみたいな状況になった。それで腕六本の人が視線で伝えてくれた。自分がシドウの気を引くから逃げろって」
……いや、それは本当にそういう俺に構わず行けみたいな意味だったのだろうか?
ケイには、どちらかというと共闘してシドウを倒そうという申し出に思えるのだが。
だとしたら、六本腕の少年からすると、ホウジョウは共闘の申し出を飲むふりをして、自分を囮に逃げ出したことになる。再会しても、協力関係を結べるのか?
いやまあ、ホウジョウの思っている通りで、六本腕の少年は彼女を逃がしてあげるつもりだったのかも。
いや、どうだろう。
うーん。
それでも、向こうも仲間を増やしたいと思っていたら、こちらを無碍にはしないかもしれない。話せばホウジョウに悪気がなかったとわかってくれるかもしれない。
六本腕には、1人仲間がいるらしい。
それもどうやら、瞬間移動の能力らしい。
瞬間移動。テレポート。超能力としては、最もメジャーな部類に入る能力と言って過言ではない。メジャーなのは、それだけ便利な能力の証なのではないか。
正直、腕が六本になる能力が強いのかよくわからないが、瞬間移動は頼もしい。味方になってくれるならば心強い。
懸念すべきは、六本腕の少年がシドウにやられていることだ。
残り人数はホウジョウがシドウから逃げ出した時からは2人減っているそうだ。六本腕の少年だけではなく、瞬間移動の少女もやられているかもしれない。
だが瞬間移動の少女だけならば、シドウから逃れていてもおかしくはないし。
実際はどうなっているかわからない。2人がまだ残っているかどうか。
探しても無駄かもしれない。
やられているかもといえば、イワカベ以外のババたち3人のうち誰かが六本腕の少年たちにやられている可能性も考えられるのだ。それについては、やはり不可抗力としてケイの方が飲み込むしかない。
あとはすごいスピードで走っていたポニーテールの女の子もいたらしい。ケイもその子のものらしい足音は聞いている。騒音を立てがら走っていたので、事前にその存在を察して隠れてやり過ごせたそうだ。彼女がどういうつもりで1人だったのかも、今も残っているかもわからない。
仲間になってくれる者と本当に出会えるのかどうか。
しかし、ケイもホウジョウのこのままじっとしているのは良くないと言う力説を聞いているとそんな気がしてくる。
というより、ケイ自身、隠れているだけでいいと思っていたわけではない。何もしないでいて、そんな都合良く勝ち残れるなどと本気で思い込んでいたけわけではない。
実際、ロープの少年の襲撃にあった。
また、どこかに籠城しようとも、あいつか、別の連中が来るかもしれない。そうなったら、今度はどうなるかわからない。
ホウジョウの話によれば、彼女と行動を共にしていたセトエイチという少年は、隠れていてもわかる能力を持っていたらしい。
彼が残っているかもわからない。ホウジョウは、多分モモセノノという少女と合わせて2人ともロープの少年か、別の誰かにやられちゃってんるじゃないかと、自分が置いていったことを悪びれずに、ドライなことを言っている。
セトエイチが脱落していても、ほかに人探しに向いた能力の持ち主がいてもなんら不思議はないのだ。
人を見つけるのに適していないロープの能力の持ち主にだって、見つけられてしまったのだ。人探し系の能力かどうか関係なしに、見つかる時は見つかる。
バリケードを作っていたことが、発見をしやすくしていた側面はもちろんあるだろう。
かといって、目立たないようにするために、なんの防護策も講じず、ただ息を潜めているだけというのも現実的ではない。
見つかってしまった時、襲撃者に対抗する準備なしでいては、あっさりやられかねない。
とは言っても、備えをしたが結局活かせなかったことを考えると、また籠城作戦に戻るのも、現実的な策ではないのではないか。
やはり、まずは仲間探しを試みるべきなのだろう。
隠れる、籠城するのは結局仲間を作れなかった時にすればいい。
仲間探し中、敵対的な相手に出くわし、やられてしまう危険性は当然ある。
結局のところ、リスクを先延ばしにするかどうかの問題ではないか。
仲間探しのために行動すれば、敵対者に見つかるリスクがある。
しかし、引きこもっていたら、後々見つかった時のリスクが高まる。
最終的に、ケイはホウジョウの提案に乗ることにした。仲間探しのために行動する。
1人でいる時から、考えていたことではあったのだ。
しかし、1人では行動に移れそうもなかった。
だけど、2人なら。
ババたちとチームを組んだ時もそうだ。ケイは誰かといる時の方が積極性が出てくる。
助けてもらった恩もある。ホウジョウも腕が六本あるという少年への恩を返したいと思っている。自分だって、ホウジョウに受けた恩を返すために何か一つくらいしてやらねばと思う。
「わかった。まずは腕が六本ある少年たちを探そう」
ケイが決断すると、表情の変化と話し方の抑揚が乏しいホウジョウが心なしか嬉しそうに言った。
「うん。行こう、ケイ」
「呼び捨てになるの早いな!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます