第31話 逃げ回る者と追い込む者
ヒビクたちは籠城している男子の元を目指しながら話し合う。
向こうがその気なら仲間にしてもいいのではないか、という意見が出る。
だけど、籠城男子にその気はないかもしれない。積極的に戦いに臨む気がないかもしれない。
一緒に誰か隠れている可能性も捨てきれない。
ロングヘア女子と行動していたところをカムイが襲撃したお団子女子がいる可能性もすでに挙げられている。
たとえ籠城男子1人だったとしても、お団子女子たちが離れ離れになった彼の仲間ということは十分あり得る。
その辺りを考慮に入れると、籠城男子を仲間に勧誘するのは最初からやめておいた方がいいという結論になる。
もともと1人でいる者を見つけても、相手がどう出るかわからないのに先制攻撃のチャンスを捨ててまで、仲間入りの打診をすることはないと総意が取れていた。
今回は籠城している相手をどう攻めるかという問題があったので、いっそ勧誘するのもありではないかという話になっただけだ。
ヒビクの拡声器攻撃なら、壁越しでも相当な負担をかけられるのではないか。
あれを使えば、バリケードを吹っ飛ばしてしまえるのではないか。
移動しながらの討議中に、帽子と金髪の男女2人組の姿を捉えたとフジサキが報告する。
カムイはあっさりとターゲットを男女2人組に変更した。
隠れている者、言い方を変えれば居場所を変えない者など後回しでいい。
あちこち動き回っている相手を見つけたのだから、そちらを優先する。その方が後でまた探す手間が省ける。
よくいえば臨機応変。悪くいえば行き当たりばったりなやつだとヒビクは思った。
だがカムイの判断は、これまでのところ本人がヒヤリとする目に遭っただけで、及第点以上の結果を出している。
これといってヒビクが反対する理由はなかった。
まずはお団子女子たちやツインテール女子たちの時にしたのと同じ動きをする。ある程度の距離まで全員で近づいてから、カムイが1人で密かに接近を試みる。
これまで見たところ、カムイは静かに移動するのが妙に得意なようだった。
しかしながら、帽子女子の方に勘づかれた。
帽子女子に不審な相手の接近を気づかされた金髪男子は、彼女を抱きかかえて逃げ出した。
金髪男子のバネになる足の機動力は相当なものだった。戦闘力はあまり高くなさそうだが、逃げに回れば結構な性能を発揮する。
普通に追っかけていては捕まえるのは無理にも思える。
なので、先回りをすることになった。
どうもカムイは距離や方向、建物の位置などを把握する空間認識能力に優れているようだ。
これまで散々歩き回った結果、この灰色の街の地図がほとんど頭の中に出来上がっているらしい。
金髪男子の逃げて行った方向の先がどうなっているか、道がどういう風に分かれているか、どんな障害物となるものがあるかを把握している。
その上で、彼らがどのルートを通るかをカムイは予測する。
これまでもフジサキの【望遠】が、遮蔽物によって追跡対象を見失うことは度々あった。
それでも見失う前の移動方向がわかってさえいれば、カムイの指示するように動くことで程なく見つけ出すことができていた。
フジサキの報告。敵対者を撒いたと判断したからか金髪男子は帽子女子を地面に下ろしている、2人で普通に歩いている。
カムイの言う通りに移動して、先回りする。
しかし、また逃げられてしまった。
また先回りをしたが、また逃げられる。
少し離れたところで待機するのではなく、カムイとは別方向から回り込もうとした結果、ヒビクたちの存在にも気づかれてしまった。
それだけではなく、敵対者たちがなんらかの能力で自分たちを追尾していることにも気づいているかもしれない。
だからと言って具体的にそれがどういう能力で、どうやったら追跡者たちを巻くことができるかまでは、考えつけないでいるようだ。
また、すぐに見つけられた。
さぞかし焦燥感に駆られていることだろう。
それに小柄で華奢とはいえ女の子を抱えて逃げるのは、金髪男子にとって楽ではないはず。
そのうち体力が尽きる。
帽子女子を支える腕が先に限界を迎えるかもしれない。
追い詰めるまで、そう時間はかからなそうだ。
だけど、カムイはカムイで焦れていたらしい。不健康極まりない体型を見ればわかりきったことだが、カムイは極端に体力がないようだ。先回りするために歩き回るのに疲れてしまったらしく、強硬策を提案した。
「爆弾、使っちゃおうか」
カムイはあっさりと、とっておいた爆弾を使うことに決めた。
自分の投げた爆弾を跳ね返され、吹き飛ばされた丸刈り男子が消えた後、爆弾がまだ一つ落ちていることにフジサキが目ざとく気づいた。
カムイは爆弾が目立たないところに落ちてるのを聞くと、回収は後回しにして、逃げていった丸刈り男子の仲間たちの追跡を選んだ。
とんでもない威力の爆弾を放っておくなんてとヒビクは最初思った。
けれども、回収に向かっている間に六本腕の少年たちは移動を始めるだろうが、爆音を聞きつけた者たちはやってくるかもしれない。安全に回収するには少し時間をおいた方がいいということで納得した。
そして、丸刈り男子の仲間だったメガネ男子とツインテール女子を撃破。ツインテール女子の残したブーメランを頂戴した後、爆弾を回収しに行った。
カムイは最初、フジサキにブーメランか爆弾を持つか確認した。4人の中で攻撃手段を持たないのは、フジサキだけだから妥当だろうと。
フジサキは、首をブンブン降って拒否した。
ヒビクは拡声器を構えていて、常に片手がふさがっている状態。それでいて遠距離攻撃が可能。ヒビクがあえてほかの武器を持つ理由はなかった。
ウシオは手ぶらで、能力も接近戦用。能力の性質も考慮して彼がブーメランを持つことに決まった。
爆弾は、チームの中で一番腕力があるウシオに投げさせるが、使う時までカムイが預かることになった。
緊急時に状況に応じて使用するよりは、襲撃前に用途を予め決定して使う方がいいというのがカムイの言い分だった。
強力な爆弾をカムイが所持することに思うことがなかったわけではないが、頭の回転が鈍そうで頼りないウシオの判断で使われるよりはいいだろうとヒビクは了解した。
ウシオも素直に了解した。
ほかに使い所、有効活用できる状況が来るかもしれないが。どうせ拾い物で、もともとないも同然とカムイは考えているらしく、ここで消費してしまうのは全然惜しくないようだ。
カムイの提案に乗るのは面白くないが、とてつもない破壊力を秘めた爆弾をいつまでも残しておくのも不安の種である。
さっさと使ってしまった方がいいとヒビクは判断した。それでもカムイの提案に乗るのは癪に障りはするが。
事前の取り決め通り、ウシオが爆弾を投げる。
これまで全く活躍してなかったこともあってか、ウシオは張り切っていた。
別にこんな戦いで出番がないのなら、それが一番だとヒビクは思う。だけどカムイだけでなくウシオもやる気があれば、その分だけ自分の負担が減ってくれるかもしれないのだから好都合ではある。
カムイがウシオに指示を出す。
金髪男子たちを、ボロボロで今にも崩れそうな建物がある方に逃げるように誘導する。
周囲の状況から金髪男子がその屋上に飛び乗る可能性は高いとカムイは予測した。
建物を避けて通るよりも、建物の上に一旦飛び乗ってから飛び降りた方が、建物を回り込まないといけない追跡者たちから距離を取れる。そう金髪男子たちが判断すると、ある意味向こうを信じての作戦だった。
金髪男子が屋上へと飛び上がったら、ウシオは爆弾を投げる。
金髪男子たちを狙う必要はない。爆発に2人を巻き込めなくて構わない。低い方から高い位置にいる者を狙うのは簡単じゃない。狙いは金髪男子が飛び移る建物の方。
無理に動く金髪男子たちを的にするより、動かない建物を的にした方が外す心配はない。
崩れかけの建物を強力な爆発で崩してしまおうというのがカムイの狙いだ。
あの爆弾の威力なら、すでに崩れそうな建物を本当に崩してしまうくらいできるだろう。
屋上に飛び乗ろうとしている、あるいは飛び乗った建物が崩れ落ちれば、どうなることか。急に足場を失って体勢が崩れ、落下。果たして地面に無事に着地できるか。
建物が崩れなくても、爆風か爆音の影響で金髪男子が着地を失敗するとか、動揺してパニックになるとか、多少なりとも逃走への悪影響が出てくれればいい。
ダメでもともと。
カムイは本当にあの強力な爆弾が惜しくないらしい。
追いかけっこで体力を浪費することの方が貧弱なカムイにとっては堪えるということしい。貧弱というより虚弱といった方が正確か。
カムイの予測したように事は運んだ。
帽子女子を抱えた金髪男子の進行方向には崩れかけの建物。
こちらの目論見通りに、目前に迫る邪魔な廃屋の屋上に飛び乗るべく、金髪男子が大きくジャンプした。余裕で屋上まで届く勢いだ。
作戦通りに、ウシオはピンを抜いた爆弾を思い切り投げだ。
コントロール抜群という感じではなかったが、的がでかいのでそれで問題なかった。
手榴弾は、爆発しても直接2人に被害が及ぶようなところへ届きはしなかったが、建物の外壁にコツンと当たった。
次の瞬間、爆発が起こり、轟音が上がった。
すでにあちこちに亀裂が入り、崩れかけている建物が耐えられる爆発力ではない。
廃屋がガラガラと音を立てて崩れていく。
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