第29話 観察者

「それにしても、いろんな能力があるものですね」

「まあ、二十五個もあれば、バリエーションも豊富だよね。でも、あんまり難しいというか複雑な能力は少ないみたいだね」

「まあ、そんなもんじゃないですか? 私たち普通の中学三年生なわけだし。変に凝った能力をもらっても扱いに困りますよ」

「それもそうだね」

 ただ隠れているのではなく、籠城の構えでいる思われる男子の能力を考察した後、フジサキとカムイは場違いにゆるい調子のやりとりに戻った。

 ヒビクは苛立ちを通り越して少々呆れ始めていた。

 この2人はずっとこんな調子と言えばこんな調子だ。4人で話し合っている時は、少しだけ真面目な雰囲気を出すが、2人でやり取りしている時は基本的に緊迫感に欠けている。

 落ち着き払った様子で貼り付いたような薄ら笑いを浮かべるカムイよりも、この状況でやけにテンションが高めなフジサキの方がある意味掴みどころがない。

 最初のうちというか、チームを作る前はもう少しオドオドした様子だったのが。

 カムイという強力な味方を得た上に、自分が戦闘に加わらなくていいことになっているから、ゆとりがあるのか。その言動はスリルを楽しんでいるようにさえ聞こえる。

 今のところ、後方で待機しているだけで済んでいるとはいえ、いつ戦わなくていけなくなるかわからないヒビクにしてみれば面白くなかった。

 

 フジサキの能力は直接戦闘には使えないが、本人に言わせればとても役に立つ能力。

 実際役に立ってはいる。 

 フジサキの能力は【望遠】

 遠くが見えるという単純な能力。

 ヒビクたちは、フジサキの【望遠】を活用して、この地にいるほかの者たちを探し回り、襲撃の際に先手を取れてきた。

 とはいえ、2人で行動していた女子を襲撃した際、カムイは1人には逃げられ、1人には反撃を許してしまった。

 仲間を失い、2人きりになってしまった男女の襲撃時は、透視かレーダーのような能力を持っていたと思しき男子に存在を気づかれてしまっている。

 結果だけ見れば、無傷で3人を退場させたのだが、危うい目に遭ったこともあり、カムイはもう少し慎重に、ほかの参戦者たちの情報収集をする方針を立てた。

 望遠はただ単に倒すべき相手を発見するだけにしか使用できないわけではない。

 遠くから気付かれずに他者を観察し、情報を収集できる。

 その利点を活用するために、しばらく戦いを仕掛けるのは控えることになった。

 それはそれでヒビクとしては構わなかったが、女の子たちでも容赦なく攻撃して、なんら罪悪感を抱いてる様子がないカムイには嫌悪感を抱いていた。勝ち残るためには男女の別など気にしていられないとは言え。

 恐ろしいのはカムイが攻撃した相手が消えるまでの時間がだんだんと短くなっていることだ。

 1人目の名も知れぬ少年の時は光となって消えるまで、数十秒ほどかかった。2人目の時は十数秒。3人目は数秒。4人目は頭を貫いたこともあって一、二秒だ。手慣れていっている。

 生き返るためとはいえ、凶悪な能力を他者に行使するのにためらいがなさすぎる。

 そんなやつが必要とあらば仲間を裏切るのに躊躇するとは思えなかった。

 終盤、状況次第でカムイは必ず裏切ってくる。

 その前にやらなくては。

 だけど、それまでは利用する。

 

 フジサキは次から次へとまではいかないが、ほかの連中を見つけては、その様子をヒビクたちに伝えてくれていた。

 戦闘を目撃した時は、早口で自分の見ているものを実況する。ヒビクたちにというより、カムイに伝えたい、カムイの役に立ちたいという感じだった。

 カムイもカムイで最初の実況の後、「滑舌いいね。説明わかりやすくて助かるよ」とフジサキを褒め、ねぎらった。

 フジサキはそれを聞いて嬉しそうだった。

 ヒビクはそのやりとりを胡散臭いと感じていた。

 お互いに調子のいいことを言って、お互いに利用しようとしているだけじゃないの。

 フジサキは太鼓持ちのようだし、カムイもそれに合わせるような態度。

 もう少しビジネスライクなやりとりはできないのと思いつつ、ヒビク自身は無意味にカムイに対して、嫌味な言い方、トゲのある言い方をついついしてしまう。

 あくまでもお互いの利益のための協力関係であって、必要以上に馴れ合うつもりはないというヒビクの意思の表れとも言えなくはない。


 なんだかんだとフジサキのおかげでヒビクたちは、蘇りをかけた戦いの参加者たちのほとんどと、その能力を推測混じりだが知ることができた。色んな能力がある、バリエーションが豊富だと言い切れるほどに。

 ヒビクたちのチーム以上に参戦者および、その能力を把握できている者たちはいないはずだ。

 情報の点で有利に立てているわけだ。


 最初にフジサキが発見し、その戦闘を早口実況することになったのは、腕がゴリラ以上に巨大になっているという少年だった。

 そいつは、ヒビクたちが襲撃するか仲間に誘うか検討している最中に、ほかの奴らの奇襲を受けて倒された。

 腕が六本ある男子と瞬間移動の美少女。

 ほかに2人、背の高い男子と背の低い女子がいることもわかった。


 その後、少し六本腕男子たちを尾行しようとしたが、別に2人行動の女子たちをフジサキが見つけると、カムイはあっさりそちらに標的を切り替えた。

 カムイが退場させたロングヘアの女子と取り逃したお団子頭の女子だ。お団子女子のその後の行方は知れていない。

 

 三つ編みの少女と空手中学生最強のシドウの逃走劇と追跡劇。三つ編みの女子が退場。

 

 六本腕男子が率いているらしい4人チームを、5人チームが爆弾の能力で襲撃。

 丸刈り男子が高身長男子に爆弾を跳ね返され退場。

 仲間を失った4人は撤退するも、その後リーダーらしきカチューシャ女子が茶髪男子の罠にはまって退場。

 ボブカット女子が仲間を置いて逃げ出す。

 取り残されたメガネ男子とツインテール女子はカムイが始末。

 

 六本腕男子たちによる、金髪男子と帽子女子の2人組の襲撃。および2人組の脱出劇。

 

 その後、金髪と帽子の男女2人組は茶髪男子にも襲われるが辛くも逃走。

 

 仲間を見捨てて逃げたボブカット女子が1人でこそこそ移動しているのも確認。

 

 そして、現在、籠城男子が引きこもっている建物を監視中。

 

 あちこち歩き回り、フジサキの望遠で探していった結果、ヒビクたち自身を入れて残り16人中14人の残留者が判明している。

 六本腕男子、美少女、高身長男子、低身長女子の4人チーム。

 帽子女子と金髪男子の2人組。

 シドウ。

 ボブカット女子。

 茶髪男子。

 籠城男子。

 

 未確認なのは2人。

 

「もう十分かな」

 カムイは言った。

 これ以上探し回っても無駄とは言わないが、未確認の2人はいつ見つかるかわからない。隠れ潜むのに適した能力を持っている可能性も高い。後回しにしてしまって構わない。

 判明している者たちの能力に関する情報は一通り集められた。これ以上、観察を続けても、都合よく新たな情報が得られるとは限らない。

 だから情報収集は終わりにして、そろそろ攻勢に出ようというのがカムイの考え。

 カムイは慎重なようでいて、堪え性がないところがある気がする。

 もう少し、ほかの連中の潰し合いを待つ手だってあると思うのだが、それを良しとしない。

 潰し合いの期待とは裏腹に、ほかの連中が手を結び合う可能性もあるから、攻勢に移るのも合理的と言える。

 ヒビクもこのまま戦いを仕掛けないままで済むとは思っていたわけではない。

 カムイが率先して動き、ヒビクのリスクを減らしてくれるなら構わない。

 その上で、どこから仕掛けるか?

 現状からすると、ほぼほぼ決まっている気もする。

 それでも、これまで確認した者たち、その能力について把握していることを整理してヒビクたちは考える。

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