第28話 身構える者

 ヒビクたちは能力を教え合い、ざっくりとした作戦会議のようなものを行い、あとは移動しながら相談することにした。

 ヒビクは移動を開始するにあたって、自らに与えられた能力【拡声器】を常時出したままにして、口元に構えていることにした。

【拡声器】は、それを出したヒビク自身の声を衝撃波のようにして前方を攻撃できる。

 回りくどい。

 声を衝撃波のようにできる能力でよくない?

 一応、普通の拡声器としても使えるから、出す意味が全くないわけでもない。

 けれど、拡声器が本来の用途で役立つ機会があるのか?

 チームから誰か、あるいはヒビク自身が逸れた時? 拡声器で呼びかける真似をしたら、チーム外の連中にも居場所を知らせることになりかねない。

 まあ、すでに敵に襲われている緊急時なら使えないこともないか。

 拡声器は消していても、出そうと思えば一瞬で出せはする。

 しかし手ぶらで行動して、使う時に拡声器を出して口元に持っていく、あるいは手を口元に持っていきながら出すことにしていたら、緊急時の対応が遅れる。

 わずかな遅れが戦闘では致命的になりかねない。

 だから、拡声器を出しっぱなし、構えっぱなしにすることに決めた。

 それなら出したり構えたりの手間を省ける。誰かに襲われた時に即座に反撃に移れる。

「そうしていると、どういう能力なのか、推測されちゃうよ」とカムイは指摘してきた。

 それくらいわかっている。

 こんなコンクリート製のものか岩石しかないような灰色の世界で、超能力なんて存在している前提で、どこで入手したのかわからない拡声器を持っている女の子を見れば、それがその子の能力だと考える。

 拡声器を口元で構えていることから、声による攻撃をする能力だろうとは容易に見当がつく。ヒビクだって、誰かが同様のことをしていたら、そうあたりをつける。

 能力がバレてしまうデメリットよりも、すぐさま攻撃に移れるメリットの方が大きい。ヒビクはそう主張した。

 カムイはヒビクの言い分に異論を唱えなかった。

「キミの身を守るためのことだから。キミの好きにすればいいよ」

 ヒビクはその言葉にフンと鼻を鳴らした。

 拡声器をどうするかで、グダクダ言わないならそれでよかったが、カムイがこちらを気遣っているような言い方をしたのは気に入らなかった。

 ヒビクが、拡声器を常に構えておくのは、外敵対策のためだけではない。カムイの裏切り対策でもあるのだ。

 カムイは状況次第で、チームの仲間を裏切るのではないかとヒビクは疑っていた。

 この戦いで残れるのは5人。

 20人が敗退すれば終わり。

 重要なのは、敗れ去るのも勝ち残るのも誰であっても構わないということ。

 チームを作っても、そのメンバー全員が残っている必要はない。

 名目上は、チーム全員での生還を目指すことになりはする。

 しかし、だ。

 残り人数8人。このチームの4人は全員残っている状況になったとして。

 もし、倒すべき、この世界から退場してもらわなくてはいけない対象がなかなか見つけられなかったとしたら?

 残り時間が差し迫っていたとしたら?

 カムイはヒビクたち3人を攻撃するのではないか?

 攻撃し、退場させて、残り人数を5人にする。

 そうして蘇りの権利をかけた戦いを終了させる。そういうこともできるのだ。

 たとえ、残り時間わずかという状況でなかったとしても。自分を仲間と思って油断している面々の不意をつき、手っ取り早く戦いを終わらせる選択だって取れる。

 むしろ、敵対する相手と戦闘を行い倒すよりも、自分を味方だと信じて疑わない者を消す方が簡単だとカムイが考えてもおかしくない。

 容赦なく名も知れぬ少年を串刺しにした冷徹さと冷酷さからすれば、勘ぐりすぎということはない。

 カムイが自分たちを裏切る可能性はありえなくもない程度ではなく、極めて高いとヒビクは考える。

 だから、カムイのことは絶対に信用しない。

 だけど、カムイはやる気に満ちている。

 ならば、カムイにはなるべく多くの参戦者を消してもらう。

 そして、チームのメンバーを退場させれば終わる人数まで減り、カムイが不穏な様子を見せたら直ちに攻撃に移れるように、拡声器は常に身構えておく。

 攻撃に移るまでの動作スピードの問題だけではない。拡声器を消していたら当然、カムイを攻撃する際に出さなくてはいけなくなる。

 場合によっては、ヒビクたちを敗退に追い込めば戦いが終結する人数になる前にカムイが攻撃してくることも予想できる。

 カムイがこちらを裏切る前兆を見せたり、仲間を切り捨ててもおかしくない状況になった時、ヒビクが先に攻撃を仕掛け、彼を排除しなくてはならない。

 その時、唐突に拡声器を出現させたらカムイを警戒させる。裏切られる前の裏切りが失敗に終わりかねない。

 常に拡声器を出しておけば、ヒビクの攻撃の兆候を察知できなくなる。

 問題はーー。

「うっかりこっちを攻撃しないでね」と冗談めかしてカムイは言った。

 牽制のつもりだろうか。ヒビクが自分を信用していないことに勘付いているのだろうか。

 おかしくはない。自分が他者を裏切るつもりでいるなら、よほどの愚か者でなければ、他者も自分を裏切る可能性くらいは想定するはずだ。

 

 拡声器の射程に関しては、曖昧にしておいた。

 自身の出す声量に比例する以上、もともと曖昧なのだから仕方がない面もあるのだが。

 カムイの裏切りを想定すれば、拡声器による攻撃が届く距離は実際より短いものだと思わせておきたい。

 カムイは一応、ヒビクの申告を信じたようだった。

 ヒビクはカムイが自分の言うことを微塵も疑っていないとは思っていない。信じているふりだと疑っていた。

 

 カムイの能力は地面から黒いトゲを生やすというもの。数は最大で四本。

 名称は【トゲトゲ】

 攻撃性の高い凶悪な能力に対して、あまりにも無邪気なネーミングだ。

 名付けたのが天からの声だとしたら、どういうセンスだ。わかりやすさ優先なのだろうか。黒トゲとか単にトゲだけだとピンとこないだろうし。【拡声器】なんて、そのままもいいところだが。

 ネーミングなんてどうでもいいと言えばどうでもいい。

 重要なのは、トゲトゲが極悪とも言いたくなる強力かつ厄介な能力であること。それを有するカムイが好戦的な姿勢でいること。

 裏切られてヒビクにその鋭い先端を向けられたらたまらないが、味方の戦力であるうちは期待できる。

 せいぜい蘇りをかけたライバルたちを倒せるだけ倒してもらおう。

 カムイを利用して、自分はなるべく矢面に立たない。もちろんやらなくてはいけない時はやるが、戦いも終盤になるまではそんな事態にならないでほしい。

 そうでないと、リスクを孕んでまでカムイのような得体の知れない相手と組んだ意味がない。

 

 そしてヒビクの期待通り、カムイは次々と参加者を始末してくれていった。

 期待通りというより期待を超えて、と言った方がいい。

 残り16人。退場者9人のうち半数近くの4人をカムイは【トゲトゲ】で貫いた。

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