第22話 焦り
カウントが18から17に減った。それから大した時間を置かずに16へと減った。
コトリはツバサくんと2人で、仲間になってくれそうな人たちを求めてあちこちうろついているところだった。
一度ツバサくんが、「なるべくまっすぐ進んでこの世界の端を一度見に行く」という案を出してくれたのだけど。
「やめとこうよ。そういう考えを予想して
誰かが待ち伏せしているかも」
せっかくの提案ではあったものの、コトリは却下した。
仲間になってくれる人は見つけたいけど。待ち伏せや、罠が貼られている危険のある場所に赴くのはリスクが高すぎる。
「あ、それはあるかも」
とツバサくんも納得した。
結局、相変わらずあてもなく歩き回っている最中に、コトリは残り人数を示すカウントが二つ減るところを目にした。
空を見上げるコトリの様子から、ツバサくんも残り人数が減っていることに気づいた。
「25引く16で9。9人がリタイアしたってことだよな。もう一人リタイアが出たら10人。
残れるのは5人!
リタイアしなくちゃいけないのは20人!
半分だ!」
ツバサくんが単純な計算をして喜ぶ。
コトリも彼の言いたいことはわかっていた。
「この調子でどんどん減っていったら、俺たち何もしないで5人に残れるんじゃね!」 無邪気そうにいうツバサくん。
彼がそんなうまくいくとは本気で思っていないことくらい、決して鋭くないコトリにも察することができた。
そうなってほしいという彼自身の願望と、おそらくコトリへの気遣いや励ましが入り混じっての発言だ。
コトリもそうなったらどんなにいいかと思う。
でも、そんなお気楽に構えることなどできはしなかった。
懸念すべき材料に気づいてしまったのだ。
「17、16と減るまでほとんど間がなかった」
コトリは声に出して言った。
数十秒。一分も経っていないくらいの時間。
「それがどうしたんだよ?」
ツバサくんがコトリの言葉に疑問を呈する。
残り人数がごく短い間隔で2人減ったことで、パッとコトリの頭に浮かんだケースーー。相打ちとーー。
「もしかしたら2人で行動していた人たちが、一緒に攻撃を受けてやられちゃったのかも」
ツバサくんは少しきょとんとしたが、コトリの言いたいことを理解して顔色を変えた。
「俺たちの仲間になってくれる可能性のあるやつらが一組消えたかもしれないってことか?」
「それどころじゃないかも」
自分では確認できていないが、きっとコトリの顔は青ざめている。ほおのあたりがスッと冷えるような感覚があった。血の気が引くというというのはこういう感覚を言うのだろう。
「わたしたちの仲間になってくれる人たちなんて、もう残ってないのかも!
残っていてもその人たちは3人以下なわけでしょう? わたしたちと会う前に、より人数が多いチームに見つかっちゃったら、みんなやられちゃってもおかしくない!
もたもたしていたら、わたしたちの仲間候補は全滅して、4人以上のチームだけが残るかも!」
そうなったら、どうなる!
「このまま人数が減って行って! 5人か4人のチームとわたしたちだけが残った場合どうなるかなんて言うまでもないでしょ! その二チームが争い合って、わたしたちが何もしなくても残り5人に入れるなんてことはまずないんだよ!
二チームのうち、どっちかがどっちかを見つけたとしても!
残り人数から、そのチームと自分たちのチームの人数を引いて! その数が2だったら! ペア一組かソロが2人いるってこと! 大人数のところよりも先に、そっちを先に倒しておこうと考えるでしょう!?」
「考えるなーー」
ツバサくんも青ざめる。
4人チームなら万全を期すために5人目を入れられるものなら入れておきたいとも考えはするだろう。
だけど残っている2人が共に行動していたら。
仲間にはできない。
消しておくのが最善だろう。
5人か4人のチームでぶつかり合い、相手チームを3人以下にすることができたとしても。逃げられてしまったら、余り物の2人を仲間に引き入れてしまうことだって考えられる。
逃げられた側のチーム。先のチーム同士の争いでは優勢だったはずのチーム。元々4人だったり、5人だったけど1人やられて4人になっていた場合、今度は人数の上で不利な状態で勝負ーー事実上の最終決戦を迎える事態もありうるのだ。
だから、何が何でもとまではいかなくても、できる限り余り物の2人を優先して見つけだして、処置をしておきたいと考えるはず。
人数が減っていけば、それだけ3人以下で行動している人が増えるかも。もしかしたら何もしなくても、5人に残れるかも。なんて悠長にしている場合ではない。
ことは一刻を争うかもしれないのだ。
今現在、何組何人のチーム、あるいはペア、ソロがいるかはわからない。
コトリたちのほかはすでに4人か5人のチーム合わせて三つしか残っていないのかもしれない。
だとしても4人か5人のチーム二つとコトリたち2人という状況よりは不確定要素が多いはず。
自分たちのチーム以外の組み合わせ、人数がどうなっているか全てを把握できてはいないはず。
その辺りが上手いこと働いてくれれば、これから3人以下になるところも出てくるかもしれない。
いや、それは都合が良すぎだ。
それよりは、まだ3人以下で行動している人たちが残っている可能性に賭けた方がいい。
たとえ今は残っていても、急がないとその人たちもいなくなってしまうかもしれない。 これ以上もたもたしていられない。
可及的速やかに行動しないと。
「でも、どうする!?」
「ええと?」
そうだ。それが問題だ。
仲間候補を急いで探そうにも探し方が思いつかない。
思いついていたらとっくに見つけている。
リスクを冒してでも、爆発音や破壊音のようなものが聞こえたら、そっちに行くか?
「あ! あそこ、どうだ!」
ツバサくんは言いながら何かを指差した。
指の示す方を見ると、灰色の廃墟群の中で一番高い建物があった。
「あそこの屋上からなら、誰か見つかるんじゃないか?」
高いところから見下ろして周辺を探す。シンプルだけどいい手だ。
だけど、高いところから地上をキョロキョロ探していたら、逆に自分たちが見られる危険性がある。
自分たちに気づくのが友好的相手とは限らない。
ほかの人たちが、あまり上の方に注意を向けていなかったら、コトリたちが一方的にあるいは先に誰かを発見できるかもしれない。
でも、空に残り人数と制限時間を示すカウントが浮いている以上、みんな割と頻繁に視線を上の方に向けるはず。
リスクは低くない。
だからといって、手をこまねいて、今まで通り闇雲に動き回っても、事態は好転しないのではないか?
それどころか、時とともに残り人数が減るたびに、リスクがどんどん高まっていくとみたほうがいい。
今リスクを避けて、後々のリスクを上げてジリ貧になるか。
今リスクをとってでも、希望を見つけられる可能性に賭けるか。
コトリは決断した。
「行こう」
建物に向かう間に運良く、あるいは運悪く誰かに出くわすことはなかった。
廃墟に入り込み、階段を上っていく。
もしかしてコトリたち同様、他者ーーといっても仲間ではなく倒すべき相手を高所から探すために先に入った人、あるいはそう行った人が来ると予想して待ち伏せしている人がいないかと、ビクつきながら進む。
幸い、待ち伏せしている人はいなかった。
屋上に無事にたどり着く。
屋上をあっちの端、こっちの端と移動しつつ、地上を眺め、自分たちの仲間候補として適した人数で行動している人たちを探す。
見つけたところで、ここから降りてから人のいた辺りを探しても、すでに移動していて接触できない可能性にも気づいてはいた。
あてもなく地上を探し回るよりは、よほど仲間候補と遭遇できる確率は上がるだろうと、自分に言い聞かせる。
見つからない。
こっちが誰かに見つからないようにツバサくんと2人して、パッと顔を出して、パッと引っ込めるやり方をしているからだろうか。
もっとじっくりとまじまじ周囲を見ていくべきだろうか。
「見つからないなぁ」
ツバサくんがぼやいた。
「うん」
考えてみたら、高いところから標的を探そうとする敵の目を逃れるために、ほかの人たちがなるべく建築物の陰になるような場所を移動していてもおかしくないのだ。
なら、ここから人を探しても拉致があかないのでは?
別の方法を考えた方がいいか。
コトリはツバサくんに相談しようと、彼の方を向いた。
視界にいきなり女の子と男の子が出現した。
女の子はすごく可愛い。
男の子は腕が六本ある。
???
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