第12話 4人組
ヨシユキの爆弾は二個目を出せている。ストックはできた。戦闘準備は整っていた。
今度は男女2人ずつの4人組だった。
カサイの言っていた、最初のリタイア者を出した組みだろうか。ヨシユキがカサイに訊くと「断定する材料がないわ」とのこと。それはそうだ。
男女2人ずつ。
セミロングの女子は遠目で見てもわかるすごい美少女。
もう1人の女子はすごく背が低い。
一方で、男子の1人はすごく背が高い。
もう1人の男子は、とんでもないことに腕が六本あった。
「ちょっとキモいね」とモモセが感想を漏らした。
「腕を六本にする能力ーーってことになるんでしょうね。やっぱり」
カサイが言った。
4人組は、先の5人組と違って、全員で固まって歩いてはいなかった。
六本腕の少年が、他の3人とは少し距離を開けて先行する形になっている。
残りの3人は、女子2人が並んで、背の高い男子が一番後ろを歩いている。
「爆音を聞いて警戒しているんでしょうね」
カサイが悔しげに言った。
「4人まとめては無理ね。でも後ろ3人は充分吹き飛ばせる範囲内に固まってくれている。六本腕ちゃん1人になっちゃえば、どうにでもなる。こっちにはあたしに、モモセちゃんにホウジョウちゃん、3人も戦闘要員がいるんだから」
ヨシユキは戦闘要員としては期待されていない。爆弾は先手を取っての襲撃には適しているが、制約がきつすぎて継続戦闘には向かない。
チームのもう1人の男子セトの能力は、そもそも非攻撃的なものだ。
ヨシユキは一応石でも投げるように言われているが、非力なセトは完全に戦力の頭数に入っていない。
セトはセトで周辺を警戒する役割があるから仕方がない。
作戦は単純。
ヨシユキが爆弾を距離の近い3人に向かって投げる。
爆発で撃ち漏らした相手と六本腕の少年は女子3人が請け負う。
「別に3人ともとは言わないけど、少なくとも2人はリタイアに追い込んで。残りの1人には戦闘が難しいくらいのダメージを与えてほしいわ」
爆弾の威力からすると3人ともというのが本音で、カサイとしては最大限の譲歩のつもりだろう。
「やれるわね? ヨシユキちゃん」
プレッシャーをかけないでほしかった。
とはいえ、カサイも自分が生き返られるかどうかがかかっているのだ。実質このチームのリーダーだし、チームの命運も合わせて背負っている。
ヨシユキが一度、千載一遇のチャンスに投球ミスしていることを考えれば、プレッシャーをかけるようなことを言うのも当然だ。
やるのだ。やらなくちゃ。
生き返るんだ。みんなで。チームで。
野球では補欠だったのに、正真正銘、自分と他人の人生のかかった大切な場面で、登板することになるとは。
5人組襲撃の時の反省から、カサイたち4人はヨシユキの後ろ側ではなく別方向で待機。
挟み撃ちが理想だが、こだわらない。
カサイたちが4人組の気を引いた隙に爆弾を投げる手もあるんじゃないかとヨシユキは思いついた。けれども、自ら積極的に囮役を買って出てはくれないか。
ヨシユキは緊張で顔が強張っていた。
一度失敗しているのでプレッシャーもひとしお。
手汗をかいていた。
汗で爆弾が滑るなんてことがないようにズボンで拭う。
やるしかない。
やっぱり人に向かって爆弾を投げるのは躊躇するし、また失敗したらどうなるのだろうという危惧もある。
それでもやらないと。
生き返らないと。
生き返ったら片思いのあの子に告白しようかなんてことも頭に浮かぶ。
ここで告白を決意しても、生き返ったらそのことは忘れてしまうはずだから、結局できないだろうけど。
とにかく、生き返らないと話にならない。生き返らないと告白のチャンスも高校行ってレギュラー取るチャンスも永遠に来ない。
やる。やるんだ。
ヨシユキは自分に言い聞かせた。
ヨシユキは爆弾のレバーを抑えながらピンを外す。
そして、思い切って物陰から飛び出した。
ヨシユキが飛び出すや否や、背の高い男子が動いた。
ヨシユキは爆弾を手にした右手を思い切り振りかぶり、投げた。
投げた瞬間、やったと思った。完璧なフォームからのピッチングだと肌感覚でわかった。
男女3人の中心、爆発にまとめて巻き込み、葬り去れるポイントに投げ込めたと思った。狙い通りの箇所に着弾し、爆発を起こし、3人をまとめて吹っ飛ばす。そうなると確信した。
背の高い男子は驚異的な反射神経と瞬発力で、飛んでくる物から仲間の女子たちをかばえる立ち位置に移動し、右手を前にかざしていた。
だけど、大爆発の前には無力だ。結局、女子2人も吹っ飛ぶ。
背の高い男子の前方に半透明の壁のような板のようなものが出現した。
サイズは高身長の少年の体をカバーするほど。縦200センチくらい、横は50センチ以上というところか。
爆弾が半透明の壁にぶつかった。
軽妙な高い音が響いた。
爆弾が飛んできた方向に逆戻りする。投げたヨシユキに向かって飛んでくる。
え?
六本腕の少年が残るから早とちりだが、勝利を確信していたヨシユキは目を丸くした。
何が起きたのか理解できなかった。
あの半透明の壁みたいなものはなんなのか?
なぜ、自分が投げた爆弾が自分の方に舞い戻ってくるのか?
理解するには時間が足りなかった。
ヨシユキが投げたはずの、ヨシユキの方へと戻ってくる爆弾は、ヨシユキの元に届く前に。
爆発した。
ヨシユキの立っている位置よりは少し離れていたが、それでもその凄まじい爆発力は、爆弾の使用者当人を消し飛ばすには充分すぎた。
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