第13話 補填
カサイヒョウコは何が起きたのか瞬時に理解できなかった。
しかし、「19人」とホウジョウイチズが呟くのが聞こえて、遅まきながら事態を理解した。
ネギシヨシユキがやられた。
チームの主要戦力を失った。
ヒョウコは動揺しながらも、即時撤退を残った仲間3人に命じた。
4人組から遠ざかってから、ヒョウコは熟考を重ねる。
見込みが甘かったと言わざるを得ない。
25人が与えられた能力は全て異なる。
二十五種類の能力がある。
二十五種類もあればバリエーションも豊富。
他者の能力、攻撃を跳ね返せる能力なんて目の当たりにしてみたら、あっても全然おかしくない能力だったのに。その存在を思いつきもしなかった。
防御系統の能力の存在を考えるのをおろそかにしていた。
自分たちの組にあれほどの破壊力を持った能力の持ち主がいたのだ。ほかの四組の中にもきわめて強力な能力を与えられた子が1人ずつくらいはいると予想はしていた。
だけど、相手側の能力がなんであれ先制攻撃さえできれば。相手が何かする前に壊滅状態に追い込めれば、それで問題ない。
先手を取っての爆弾による奇襲に失敗した場合は、とっとと退散すれば、リスクは最小限に抑えられる。
とにかく、ほかの生還希望者たちを先んじて発見し、ヨシユキに爆弾を投げさせる。
奇襲の成否、戦果によって、残存者を自分含む女子3人で片付けてしまうか、それとも無駄な危険を侵すことを避け撤退するかを判断する。
それがヒョウコの考えた基本的な戦術、戦略だった。
幸いチームには、戦いの参加者たちを探すのに特化した能力の持ち主がいたわけだし。
ヒョウコは自分の戦略に自信があった。
自信があったのに。
あっさりと要となる能力の持ち主を失った。
あっさりと戦略は瓦解した。
だけど攻撃を跳ね返す能力のことを知れたのは大きい。場合によっては、ヒョウコがノッポの男の子に攻撃を仕掛けて、自分の吹き出した火炎で自らの体を焼き尽くすはめになっていたかもしれない。
事前にその存在を知れたおかげで、攻撃反射能力で返り討ちに合う可能性はまずなくなった。ヨシユキがやられたのは、ヒョウコにとってはある意味ラッキーと言えた。
あのチームといずれまたぶつかる時のために、攻撃を跳ね返す壁の考察と対策を練っておかないと。あのチーム以外を相手する時のことも合わせて考えて、基本的な戦術も見直さないといけない。
自分の火炎も跳ね返されるものととりあえず想定したが、そうとも限らない。跳ね返せる対象は、爆弾のように物質的なものだけかもしれない。
だけど、根拠がない以上、そう考えるのは危険だ。確証がない以上、自分の火炎や、レーザーみたいな能力があるとすればそういうのも跳ね返せると仮定しておくべき。
跳ね返せるのは能力による攻撃だけなのかも気になるところだ。その辺の石ころを投げても跳ね返されるのか。跳ね返せるものと仮定しておくのが無難だ。あの反射する壁の能力の性能を低く見積もるのは危険だ。
あとは、ヒョウコ自身がやることはないだろうけど、殴ったり、体当たりをしたり、手にした武器で攻撃したらどうなるかだ。
弾き飛ばされるのだろうか?
ただの壁のように作用するかもしれないし、すり抜けてしまうことだって考えられる。
なんとも言えない。
だが、攻撃を跳ね返せるのは便利で強力なようでいて、制限が多いことはわかっている。
まず、出せる時間が短い。
半透明の壁が出現してから消えるまでの時間は1、2秒程度だった。
タイミングを合わせないと攻撃を跳ね返すことはできない。
加えて、自分の手を向けた方、手前にしか壁は出せないようだ。
離れたところに出せるなら、女子2人をかばうように飛んでくる爆弾の前に出る必要はない。
後ろに回り込めれば、無防備だ。
ただ、ノッポの少年の真後ろに回ったとして、彼がヒョウコの仲間の誰かの攻撃を防ぐために攻撃反射の壁を出していたとしたら。
壁の反射効果が、前側だけではなく後ろ側にも有効だったら?
火炎はノッポの少年を焼き尽くしながら、反射の壁まで到達し、跳ね返って、ヒョウコ自身を焦がすこともありうるのでは?
もしそうだととしても、なるべく離れたところ、火炎が有効となる距離ギリギリから攻撃を仕掛ければ、ヒョウコ自身の身が焼かれることは避けられる。
とはいえ、そんなリスキーな真似は避けたい。
ノッポの少年の相手は、ホウジョウかモモセに担当させたいところだ。
六本腕の少年は、ヒョウコにとってさしたる脅威でないはず。腕が六本あろうとリーチは拳が届く距離まで。
ヒョウコの火炎もリーチは短めだが、それでも常人の腕の長さよりはよほど長い。
正面から来られる分には問題ない。横や後ろからの接近を許さないようにすればいいだけ。
あとは女の子2人をどうするかだ。どういう能力を持っているかによって話は変わってくるが。そんなのは残った生還希望者たちの誰を相手にするにしたって変わらない。
モモセの能力で奇襲を試みるか。
爆弾はもとより、火炎よりもはるかに攻撃力は劣るとはいえ、直撃さえすれば、一撃リタイアとまでは行かなくても戦闘が困難なくらいのダメージは与えられるはず。
それで女子のどちらかを戦闘不可能にさえしてしまえば、一旦撤退してもいい。リスクを取らず怪我人を抱えたチームの相手をほかのチームに任せるという手もある。
モモセの能力ならば、たとえ反射の壁に跳ね返されてもリスクは小さい可能性が高い。
もっといえば、反射の壁そのものを攻略しうる。
ヨシユキの能力のように一発で敵チーム全滅を狙えないとはいえ、モモセの能力でも、奇襲からの結果いかんによる戦闘継続か撤退かを選択する戦略は十分可能だ。
今後はモモセを軸にしていくのがいいか。
呑気な彼女を戦術の要とするのは不安だが。
性格的にはヨシユキも大役を任せるには心配だったが。
そこはそれ。爆弾の威力を考えれば大役を任せるだけの価値はあった。
大雑把に今後の戦略の見直しを終える。
だが、この先戦いを仕掛けていく前にやっておくことがある。
「これから、どうするの?」
モモセが訊いてきた。
「そうね。できるだけ万全を期したい。仲間を補充したいわね」
「新しい仲間? でもいるのかな? あぶれている人」
ヒョウコは空のカウントを確認する
19。
ヨシユキがリタイアしてから、依然変わっていない。
「ヨシユキちゃんのおかげで、バラバラにできたチームがあるでしょ? 少なくともその内1人はアタシたちで倒した。
その前にリタイアした3人があの子の仲間の3人だった場合、1人だけ取り残されている子がいることになるわ。そうじゃなくても、あの5人だったチームのメンバーが合流できている可能性は低いでしょうし」
モモセは驚く。
「ヒョウコさんがやっちゃった子の仲間だった子を仲間にするの? 一度、思いっきり攻撃したチームの誰かを?」
「幸い、こっちの顔は向こうに知られていないはず。爆発を起こした当人のヨシユキちゃんもいない。爆弾もなくなっちゃったし」
「色々黙っているの? でも、逸れた仲間の人たちがいるのに仲間になってくれるかな?」
「義理とかそういうの? その辺は人によるけど。少なくともあたしたちは1人リタイアしているのを確認している。アナタの探している仲間はこんな子じゃなかった? その子は光になって消えてしまったって。
それから、ほかの子たちもリタイアしている可能性が高いかもって思わせればいいのよ」
「リタイアさせたのはヒョウコさんなのに? 騙すの?」
「あら、嘘は嫌い? アタシも好きじゃない。むしろ嫌いな方。でも嘘をつかなくていい。壁を通り抜ける子がリタイアするところは見たけれど、それをやった人の姿は見ていないって、アタシが言ったらそれは嘘かしら?」
「あ。なるほど。ヒョウコさんがヒョウコさんの姿を見ていなくてもそれは普通だもの。嘘じゃない」
「そゆこと」
「ヒョウコさん頭いい」
一応褒められているのだが、モモセに言われると微妙に馬鹿にされているような気もする。
「もし、あの子のチームだった子の誰かに会った時はアナタたち、ちゃんと話しを合わせなさいよ」
モモセ以外の2人にも念を推しておく。
「1人でいる仲間にできそうな子がほかにいれば、別に誰でも構わないんだけど。
現状1人行動している子が何人いるかわからないけど。
5人目の補充が済むまでは、戦闘はやらない方針で行くわよ」
さて。これからしばらく戦いを避けつつ、1人でいる者を探すことになるけど。
どこを探すのが良いのか。
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