第11話 もう1人の男子

 カサイチームは灰色の街を探索していた。

 セトエイチの能力【探知】で周辺を警戒しつつ進む。

【探知】は名称通り、他者の位置を探知する能力である。

 範囲は360度。

 後ろ側だろうと、壁や障害物の向こう側にいようと範囲内ならば、そこにいる人間の存在を感知できる。

 具体的にどういう風に感知しているかは他人に説明しにくい。気配を感じ取るというのが近いか。

 存在だけでなく、大雑把になら身長、体格も把握できる。

 索敵をしながらエイチは考え事をしていた。

 リタイアとなった少女はすぐに光りとなって消えてしまった。

リタイア者の体がいつまでも残らないようになっているのは、まだ残っている者たちへの配慮だろうか。

いや。そういうわけでもないのか?

リタイアした者は別に死んだわけではない。もともと死んでいるのだから。

要するに、天国とか極楽とか、そういう場所に一足先に送られただけかもしれない。

 自分の能力で見つけた女の子が丸焦げになったことに少しも心が痛まなかったということはない。だが、それほど罪悪感を覚えなかった。

やはり、ここが死後の世界もしくは生と死の中間の世界であること、現実感に乏しいこと、自分自身が一度死を体験したこと、能力という非現実的な要素など、諸々が影響しているのだろうか。

自分だけでなく、カサイヒョウコも。火炎放射器のような強力な炎を他人に向かって吹きかけて、得意げでさえあったり。

ツインテールの女子モモセノノも、それを気にしていないどころか、喜んでいるようだったり。

丸刈りの少年ネギシヨシユキは胸を撫で下ろした様子だった。

ボブカットの女子ホウジョウイチズは空ばかり見ていて、カウントが減るたびに無表情で残り人数をぽつりと呟く。

倫理観が少々狂ってしまっている気もする。

もしかしたら、ただ能力を与えられただけじゃないのでは?

能力に関する情報を勝手に記憶の中に入れられるのだ。自分たちの感情を操るような真似もできるのではないか。

気づかれない程度、あまり不自然でない程度に倫理観、道徳観念を緩めるような処置が頭の中に施されているのではないか。

いや、それは自分のやっていることを正当化するための言い訳めいた発想な気もする。

直接戦闘には加わらなくても、生き返るために索敵要員として力を貸すと決めたのは自分自身だ。

自分で決めたことの結果、1人の女の子が悲惨な目に遭った。

神様か悪魔かもわからない存在に責任をなすりつけるようなことを考えるべきではない。

ほかの生還希望者たちを倒す役目はチームの人にやってもらっているとはいえ、一蓮托生だ。あるいは同罪。

ここでのあれこれが罪になることはないと言っていたが、自分の良心の問題はまた別だ。

しかし、あの言葉からすると、やはり死後の世界には天国や地獄の区別があり、生前に犯した罪によって行く先が変わるということなのか。

そのあたり興味深い。

こんな状況下でも、知的好奇心が湧いてくる自分は変わっているのか。

いかにしてこの戦いに勝ち残るかということより、もっぱらこの戦いそのものに関する疑問の方に考えがいってしまう。

それとも死という劇的体験を経たことで度胸がついたのか。

 エイチは、カサイのチームを組むという提案に、理知的にそれが最善だろうと判断し、賛同した。

 とはいえ、エイチはさっぱりしたものだった。

 生き返りはしたい。

 自分が死んだままだと、両親が哀しむことになるのを気に病んではいる。

しかし、そこまで強い生への執着も湧いてこない。

エイチはそれがなぜなのかと、自己分析を試みた。

一度死んでしまったことが強く影響しているのだろうと結論を出した。やはり死という劇的な体験をしてしまった自分の精神が、生前のものとは変化してしまっているのだろう。

死んでしまったことで死ぬとはこういうものか、と受け入れてしまったところがあるのではないか。

死ぬなんて大したことではないとまではいかなくても、死んでしまったものは仕方がない。

普通なら一度死ねば終わりなのだ。特別に生き返るチャンスが与えられたのは有難いし、生き返る権利を得たいとも思う。

だけど、そこまでがっつく気になれない。

 もしこれが一度死んだ後の生き返るための戦いではなく、生きている時に死なないための戦いだったら、また違っていたはずだ。その時はもっと必死になっていただろう。

だとしても、自分が暴力行為に積極的に手を染めるのは想像しにくいが。拳銃とか持たされたら、つい引き金を引いてしまうくらいはありうると思う。

そんな想定をしても仕方ないことだ。

これは生者による命を落とさないための戦いではなく、あくまでも死者が一度落とした命を拾うための特殊な戦いなのだ。

誰もが生前の感覚、感性と同じようではなくても当然と考えておこう。

生への執着は薄めでも生き返りたいことには代わりない。

チームを組んだ以上は、チームに貢献しよう。自分の役割を果たそう。

幸い、戦闘はしなくてもいいことになっているし。

 戦闘に参加しない分、索敵要員として働らかなくてはならないが。

エイチはそんなことを考え歩きながら、能力で周囲を探っていた。

そして次のターゲットが見つかった。

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