終末円環世界イチオシの聖女
ki-you(きゆ)
第01話 キセキ動力列車
アカデミー前駅行きのキセキ動力列車――キ車は、定刻通り出発した。
窓からのぞく晴れ渡った空には、巨大な黒い帯が、天の川のように横たわっている。
それは、実在神オーズの
今日は絶好の
その最後尾の客車に、ケイ=ノービスは乗っていた。
「どうもお嬢さん。お隣、いいですか?」
映写機のフィルムのように高速で流れていく車窓を眺めていたケイに、細身の青年が話しかけてきた。
おそらく空席を探して車両を渡り歩いてきたのだろう。
若干くたびれた紺色のスーツを着た青年に、ケイは快く頷いてみせた。
「どうぞ。あ、でもボク、男だよ?」
ケイは、茶色のパンプスにピンクのミニスカート、白シャツに紺の
「な……るほど」
青年は、一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに笑みを作り直し、ネクタイを緩めながら、ゆっくりとシートに腰かける。
「どうして女の子の格好を?」
「修行の一環」
「……というと?」
「あれあれ」
ケイが指差す方向に青年も視線を向ける。
そこには
広告の中では、ケイと同じ改造修道服を着た美しい女性たちが映し出されていた。
彼女たちは回転翼を備えた扁平な飛翔体に乗り、空を駆けながら、華やかな演出と共に歌い、踊っている。
『10ミリ秒の攻防が勝敗を決める!』
『君も天輪教の七聖女を目指そう!』
そのようなテロップがキ車広告の中で踊っていた。
「ボク、聖女になるんだ」
聖女とは、キセキと歌と踊りを通して天輪の教えを広める信仰の象徴であり、余人にはない魅力と才能を持つ女性たちのことだ。
だからケイは、少しでも魅力的に見えるよう、女性の装いを真似ている。
化粧もばっちりで、胸パッドも仕込んでいる。
その成果を自慢するように、親指と人差し指を立てて、自分の
「似合ってない?」
「いや、とても……よく似合っています」
中性的な顔立ちに、ほとんど声変わりしていないソプラノボイス。
パッドで胸もあるように見え、一見して男性とは思えない。
現に青年も最初は気づかなかった。
そんなケイがあざとく小首を傾げると、青年は小声で、
「誰が何を目指し、どんな格好をしようと自由……ですよね、オーズ様……」
などとつぶやいていた。
「……自己紹介がまだでしたね? 私はジュダスといいます」
「ケイ=ノービスだよ」
「ノービスさん、これも
青年――ジュダスは、左右の人差し指同士、親指同士を合わせ、輪を作る。
それは
「ケイでいいよ。よろしくね、ジュダス」
ケイは初対面の年上の男性にずけずけため口で接する。
礼節ゼロなのは育ちの問題だが、ジュダスが気分を害した様子はなかった。
ケイの邪気のない笑顔に毒気を抜かれたのかもしれない。
あるいは、彼ができた大人だからか。
「今日はどこから?」
「304教区だよ」
「ずいぶんいな……遠くから来たのですね? 楽しそうにしていましたが、キ車がお好きなのですか?」
「いつも負けてるライバルに乗ってやるのは、愉快な気分だね」
「はぁ……そうですか……?」
ジュダスは今日何度目かの困り顔を浮かべていた。
ケイの発言の意味がわからない、と表情が物語っている。
「実は、キ車に乗るのははじめてなんだよね」
「あなたは……とてもユニークですね」
キ車のレールは、333ある教区を結び、各教区内にも張り巡らされている。
その中心地である聖都では、駅がほぼ等間隔に並び、五分間隔でキ車が往来する。
どこへ行くにも、キ車は利便性抜群なのだ。
そのため、ほとんどの人間は物心がつく前にキ車の使い方を覚える。
十代半ばのケイが「はじめて乗る」と言えば、世間知らずだと笑われても仕方がなかった。
つまりジュダスの「ユニーク」という言葉は、かなり配慮された表現だった。
「はじめてのおつかい、というわけでもなさそうですが……」
「アカデミーに行くんだ」
「アカデミー……聖女養成学校に?」
「師匠の推薦で、中途入学試験を受けられることになって……あそこに行って、卒業すれば、聖女のライセンスがもらえるんでしょ?」
「ああ、はい……そうですが……」
ケイは男で、アカデミーは女学校だ。
ジュダスの言いたいことは、ケイにも手に取るように伝わってきた。
「その顔……もしかして疑ってる? 嘘じゃないよ?」
「もう驚きは頭打ちです。すべてはオーズ様の思し召しです」
ジュダスは再び両手で輪を作った。
「しかし現実問題、戦闘用キセキが使えない男性が聖女になるには――」
ジュダスの言葉の途中で、物々しく鋭い音が響き渡った。
ケイとジュダスは、揃って音のした方を振り向く。
いつの間にか客車の先頭に、のっぽの男と小太りの男が立っていた。
二人ともミリタリー服に身を包み、アサルトライフルを携え、陶器のようにマットな輝きを放つフルフェイスマスクを被っている。
のっぽの男が掲げた右手には、ハンドガンが握られていた。
先ほどの鋭い音は発砲音だったのだ。
「聞け! このキ車は我々、
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