第19話
お食事が済んだ後はお風呂の時間になった。羽青はメイドに促され、次の“儀式”のようにお風呂に案内された。羽青は静かに胸を高鳴らせながら大浴場へと向かった。メイドが手際よく導くその先には、言葉では表現しきれないほどの広さと豪華さを誇る湯殿が広がっていた。まるで宮廷の一角に隠された秘密の庭園のようで、照明光は柔らかく差し込み、白く磨かれた石畳に反射して水面の揺らぎをきらきらと映している。
大浴場と呼ばれたそこは、まるで古いお城の中庭を思わせる広さがあった。
白く磨かれた石畳、複雑な装飾の噴水、澄んだ湯が湯船の縁から溢れ、ゆるやかに流れている。
湯気が薄い膜のように空間を包んでいて、どこか幻想的ですらあった。
「……すごい……」
羽青は思わず小さな声を漏らした。湯船の広さ、豪華な装飾、澄んだ湯。
羽青が肩まで湯に沈むと、湯の温かさが全身を包み込み、石畳に映る光と湯の波紋がまるで生き物のように揺れる。手を伸ばせば湯が指先をくすぐり、湯の中に小さく漂う泡は光を受けて無数の星のように輝く。耳には湯が流れる音と自分の呼吸しかなく、世界のすべてがここに凝縮されたかのような感覚に包まれる。
湯の透明度は高く、足先まで見通せる。底に敷かれた青い石の模様が、湯の揺らぎで微妙に変化するたび、羽青の目は離せなかった。湯面に立ち上る湯気は、光を柔らかく拡散し、全体を幻想的なヴェールで包む。大浴場の広さ、湯の豪華さ、香り、光、音――すべてが完璧。
湯舟の縁に腰かけると、水の中で微かに体が揺れ、湯の圧力と温かさが絶妙に絡み合って、全身がふわりと浮かぶような感覚になる。湯の中で手を動かすと、湯面がさざ波となり、音と光が絶え間なく変化して目と耳を楽しませる。羽青は思わず息をのむ。水面に映る自分の顔は揺らぎ、光の反射で瞬く間に表情が変わる。
浴場の端には小さな段差が設けられ、腰を下ろすだけで肩まで湯が覆いかぶさるように設計されていた。水の中で深く息を吸うと、湯気と香りが肺に入り、全身がふわりと軽くなる感覚を覚えた。湯の音、光、香り、すべてが混ざり合い、まるで異世界に迷い込んだかのような錯覚を生む。
「すごい……室内お風呂っていうか、古代ローマ風大露天風呂じゃない……?」
息を呑む羽青の背中で、メイドたちは一列に並び、一礼するとそそくさと退出していった。
「えっ、え、ちょっと待って!?」
羽青が振り返ったときには、もう扉が音もなく閉じられていた。
「……あれ?お風呂は、私ひとり?」
思わずつぶやく。大浴場に響く声。
どこからも返事はない。
豪華な造りのわりに、妙に冷たさを感じる無人の空間だった。
「……さっきの食事の距離感とギャップありすぎでしょ……」
制服をゆっくり脱いで畳むと、入口の方に向かって手を掲げた。
「……えっと……あの……洗って欲しいでちゅ♡……」
声が湯気の中にむなしく消えていく。
「……」
誰も来ない。
「……なんで……みんなでお風呂とか、こないの??」
たぶん、ここも“決まり”なのだろう。
羞恥に耐えながら口移しで食べさせるのは平気でも、入浴は一人でやらせる――そういう文化らしい。
「……もう……魔界って……変な国……」
小さくため息をつきながら、羽青は湯船に足を浸けた。
柔らかい湯が肌を包むと、先ほどまでの疲れが少しずつ溶けていく気がした。
水面に映る自分の顔は、どこか心細げで、それでいて少し逞しくも見えた。
「……ひとりだけど……いいお湯、ふふ」
独り言を呟いて、羽青は肩まで湯に沈んだ。
しんと静かな大浴場の中、湯の音だけがかすかに響いていた。
湯船は広大で、畳数十畳分にも匹敵する大きさがあった。縁は滑らかに磨かれ、石材の冷たさが手に伝わる。湯舟に手を触れると、澄んだお湯がほんのり温かく、まるで手を包み込むように優しく抵抗してきた。湯の表面は鏡のように周囲の装飾を映し、照明の柔らかな光とあいまって、金色や淡い青の光彩を織りなす。
浴場内には複雑な装飾が施された噴水があり、中央の噴水から湯が勢いよく流れ出すたび、微細な水滴が周囲の空気に香りと涼感を与えていた。湯気は薄い膜のように天井まで届き、光を柔らかく拡散させ、空間全体を幻想的なヴェールで包み込む。湯船の縁からは水が溢れ、細い小川のように床に流れ、石畳の凹凸で跳ね返るたびに心地よい音を響かせる。その音は、微かな水のハーモニーとして、羽青の耳に静かに届いた。
湯の温度は完璧に調整され、肌に触れると血流を優しく促すような暖かさを持っていた。湯舟の中で体を動かすと、水面は波紋を描き、反射する光が躍動的に揺れる。その光の中で湯の透明度は高く、底に敷かれた青い石の模様や、浮かぶ小さな花びらまで見えるほどだった。小さな泡が湯の表面に集まり、光を受けてまるで小さな星々のように輝く。
羽青がゆっくりと湯に身を沈めると、体のすべての緊張が解け、重力を忘れたかのような浮遊感に包まれた。湯は柔らかく、肌にまとわりつくように流れ、羽青の指先から肩までをそっと撫でる。湯の香りには、微かに薬草の香りが混ざり、浴場全体に広がる湿気と相まって、官能的で心地よい匂いとなる。
壁面には繊細な彫刻やタイル細工が施され、湯気に包まれた中でその影が揺らめくたび、まるで生きているかのように模様が動く。光の加減で青や金、銀の光彩が湯に映り、羽青の目には一瞬一瞬が宝石のように輝いて見えた。天井の高い梁からの照明光は、湯面に反射してさらに複雑な模様を作り、羽青の視界を埋め尽くした。
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