第18話

食事が終わると、羽青はぐったりと椅子にもたれかかった。

口移しという予想外の儀式で、口の中は料理の余韻というより、ただただ何度も繰り返された“接触”の感覚ばかりが残っている。


「……なんか、食事というよりめちゃくちゃキスされたような気がする……」


つぶやくと、すぐ隣にいたメイドの一人が、いかにも満足げに頷いた。


「キスは免疫力が上がりますし、血流も促進されます。姫も仰っていました」


「そんな医学情報、聞いたことないけど……」


羽青が目を白黒させるのをよそに、別のメイドがテーブルの上に上品な封筒をそっと置いた。


「羽青様、本日のお食事を立派に完食されましたので、こちらをお渡しいたします」


「……私??」


封筒を開くと、中から可愛らしい厚紙が一枚出てきた。

淡い桜色の縁取りに、くるくると装飾的な文字が踊っている。


「……感謝状?」


声に出して読み上げた。


『お食事をよく食べました えらいでちゅ♡』


「…………」


あまりの破壊力に、羽青はしばらく言葉を失った。


「……“えらいでちゅ”って……私、何歳設定なんですか……?」


小さくつぶやくと、メイドの一人がすっと近づき、懐から小ぶりな鏡を取り出した。


「ご覧ください、羽青様」


鏡を受け取ると、そこに映る羽青、つまり、自分に一瞬目を奪われる。

肌はつやつやと光を反射し、髪はまるでシルクのように滑らかに整い、瞳は潤んで星のようにきらきらと輝いていた。


「……ガチなんだ……」


ぽつりと呟いた声が、羽青、つまり、自分でも驚くほど平坦だった。

食事を取っただけでここまで美容効果があるとは。


「これ、もし人間界に帰ったら無双できるんじゃない……?」


思わずそんな考えが頭をよぎる。

だが同時に、あの羞恥プレイのような口移しが、毎回必須なのかと思うと――

羽青はそっと鏡を伏せて目を閉じた。


「……やっぱり、早く帰りたい……」


胸の奥で、切実な願いが静かに芽生えた。

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