第13話
その日の事件は羽青誘拐事件(人間界の羽青が魔界国に連れ去られる事件勃発)として、この物語に記述される。その事件のはじまりは………。
人間界の羽青は学校の授業が終った後、疲れた身体を休めに、1人で学校内のお風呂に行った。学校のシャワー、お風呂施設は生徒は自由に使える。
羽青は学校のお風呂施設でのんびり授業の疲れを癒していた。湯船に浸かりながら、ぼんやりと湯の中にいて、髪の毛の先の水滴が胸に落ち、胸の形をなぞるように水滴が伝い落ちていくのを見ていた羽青に……湯船の水面に気泡が泡立ちそれが羽青を取り囲む。
「あ」と羽青の声。
気泡は羽青を取り囲むと湯船の湯面に穴が開く。湯船の底が抜けるように開き、白く濁った湯の中に暗い渦が広がった。
「あああー」羽青の小さな悲鳴は、気泡の破裂音にかき消されて湯気に溶けた。
視界はあっという間に暗転し、耳鳴りとともに重力が反転する。
――落ちているのか、吸い込まれているのかもわからない。
「……っ」
唇が震える。湯のぬるさが失われ、骨の髄まで冷える空気が肌を刺した。
気づけば、湯の代わりに深い霧が肌を撫でていた。
ぼんやりと光が射していた。
霧の向こうに、見覚えのない巨大な門。
黒曜石のように黒く光り、荘厳にそびえ立つ。
両開きの扉には、古い紋章が刻まれている。
――それは、あの魔導師(UK)のマントにもあった意匠だ。
「ここは……」
羽青は声を出すが、霧に吸われて自分の耳にすら届かない。
裸の身体に鳥肌が立つ。
自分が、もう学校のお風呂にいないことだけは、はっきりしていた。
そのとき、門の奥から幾重にも足音が近づいた。
やがて霧が割れ、金と深紅のローブをまとった影が現れる。
先頭の男が、仮面越しに羽青を見下ろした。
「……やっと、お目にかかれました。姫君」
「え?」
羽青の唇が震えた。
「我ら、魔界国より迎えに参りました」
「ま……かい……?」
「あなたを、我が主――魔王様のお側へお連れします」
そう言うと、仮面の奥の瞳が一瞬だけ優しげに細められた。
けれどその言葉の端に、抗えぬ決意があった。
羽青は後ずさった。
裸の足が霧に沈む。
だが背後はもう霧しかなかった。
「お待ちください」
伸ばされた手が、羽青の肩に触れる。
冷たいのに、どこか馴染む感触だった。
「あなたは、正統なる後継者」
そう告げられた瞬間、霧が波のように彼女を呑んだ。
視界が真白に染まり、次に意識が戻ったときには、
羽青は魔界の空の下に立っていた。
濃い群青色の天幕に、暗く沈む二つの月が並んでいる。
***
科学者は
「羽青様を空の間で無事保護に成功しました」
と魔王に告げる。
空の間と呼ばれる白霧の広間に、羽青は、裸のまま立ち尽くしていた。
冷たい床に足が張りつきそうで、逃げることもできない。
霧の向こうから無数の視線が注がれている。
まるで商品を値踏みするように、低い声が次々と飛び交っていた。
科学者。魔王の部下達。戦闘服飾デザイナー担当。武器デザイナー担当。武装デザイナー担当。食事担当。それぞれが感想や意見を述べる。
魔王の部下達は「おスタイルは全体的にぺったんこですね」と真面目な口調で言うと。
戦闘服飾デザイン担当デザイナーは「身体に凹凸が少ないし、胸部や臀部を強調した戦闘服はバランスが悪くなるかもしれませんね」
と述べ。
武器デザイン担当武器デザイナーは「手足は長くもなく普通、しかし速系筋肉が発達して無いようには見えませんが………。重系動筋肉が薄いかな?重たすぎる剣は無理筋。走るのも遅そうだな」
とバッサリ。
武装デザイン担当武装デザイナーは「重武装は不適合」に同意意見と述べ。
カロリーマネージメントデザイン担当はカロリーマネージメントデザイナーは「髪に艶がありますが、皮膚の血色が不可。栄養状態が……。胸や臀はこれからの成長を期待するしかない」と軽評した。
羽青は両手で胸をかばい、震えながら唇を噛んだ。
耳を塞いでも声は止まらない。
恥ずかしさよりも、恐ろしさのほうが勝っていた。
やがて、暗色のローブを纏った最も高い席の人物が口を開いた。
低く響く声には、どこか憂いが滲んでいる。
「……羽青担当、評価と確認は完了か?」
「はい、魔王様。身体的特徴、戦闘適性、基礎健康状態、すべて把握済みでございます」
「そうか」
魔王と呼ばれたその声が、小さく吐息を漏らした。
「……いつまでも空の間で裸のまま放置するわけにもいかん」
淡く霧が揺れ、空気が張り詰める。
羽青は反射的に肩をすくめた。
「姫の間02へ転送せよ」
「了解しました」
床に魔法陣が浮かび上がる。
一筋の光が羽青の身体を撫で、指先から胸、足の先まで淡く包んだ。
その光は、優しさなどひとつもない冷たいものだった。
羽青は小さく声をあげた。
視界がふっと霞む。
心臓の奥を何かに強く掴まれたように痛んだ。
次の瞬間、霧も声も消え去り、
代わりに石造りの広い部屋が目の前にあった。
――姫の間02。
そう呼ばれた空間だった。
高い天井には黒いタペストリーが揺れ、
正面の壁に魔界の紋章が輝いている。
その中心に、自分と同じ顔をした誰かが――
黒いドレスの少女が、無表情で立っていた。
黒ドレスを着た少女は羽青を見ると近づき、裸の羽青をゆっくり鑑賞しながら「あなたクローン?それともロボット?新しい私のおもちゃかしら?」と煽る。
羽青は昔習った空手の型の姿勢のまま黒ドレスの少女を睨んだ。
黒ドレスの少女は「(笑)私と殺る気?その形、知ってるわ。確か極真派の新組手流殺覇空系空手
九七式観音速手刀構え返しの型ね(笑)」
羽青は警戒したまま。「何故、知っているの?」と問う。
黒ドレスの少女は「(笑)私の母の好きだった型だし、でも…少し違うな、変形バージョンかしら?」と推察を述べる。
羽青は「私が改良したの。この型は私の母が開発した型だったから……」と返すと。
黒ドレスの少女は「面白い裸のガキね。なら、これどうかわす?」
そう言うと、黒ドレスの少女は七本の木刀を投げた。
羽青は七本中二本しか直撃しないこと確認する。彼女は、ほぼ動かず二本の木刀を手刀で叩き弾き返した。
黒ドレスの少女は「甘いね」と
羽青の背後から横蹴りを入れる。
羽青の脇に蹴りが直撃。羽青は転がりながら木刀を拾う。
黒ドレスの少女は「あれ?骨折しなかった?」と軽口。
羽青は「するわけないでしょ、この私が」と言い、羽青は木刀を構える。
黒ドレスの少女は「ちょっ待ってその剣。なに?見たことない型だけど……」と慌てるが……。
羽青は「行くわよ!」羽青は黒ドレスの少女に直進する。
黒ドレスの少女「早すぎる!!」
黒ドレスの少女は防御姿勢、だか間に合わない。
羽青は、そのまま黒ドレスの少女の上に乗っかると木刀で黒ドレスの少女を押さえつけた。
羽青は無表情で問う。「まだ続ける?」
黒ドレスの少女は笑い出した。
「そんなに速いなら剣技いらなくない?」
羽青は「師匠にも同じこと言われた(笑)」と苦笑して言う。
黒いドレスの少女は、自分の身体の上に置かれた木刀を見下ろしながら、ひとしきり笑い続けた。
そしてやがて、胸を上下させて息を整えると、伏せられた視線をゆっくりと持ち上げ、真正面から羽青を見つめた。
「――面白い子ね、本当に」
黒ドレスの少女の声には、もう先ほどまでの挑発的な棘がほとんど残っていなかった。
代わりに、なぜか少しだけうれしそうな色が滲んでいる。
羽青は木刀を握る手を緩めずに応じた。
「面白いのはそっちでしょ。私の型を知っていて、しかも、その体勢で投擲も蹴りも精確。…それに、さっきのは本気じゃなかった」
「察しがいいのね」
黒ドレスの少女は小さく息を吐く。
「さすがにこの部屋で本気は出せない。あんまり派手にやると、護衛たちが駆けつけて台無しだから」
羽青は木刀を下ろし、ゆっくりと立ち上がった。
まだ、裸のままなのを思い出し、思わず顔が赤くなる。
だが、今さら恥ずかしがっても仕方がない。
黒ドレスの少女は小さく肩をすくめた。
「あなた、何者?」
「……。人間」
羽青は木刀を脇に抱え、堂々と応えた。
「……、私の母は、あなたの母と何か関係があったのかな? この型を知っていたなら……」
「そうかもしれない。けれど、それを知るには…」
黒ドレスの少女は片膝を立てて、椅子のように座り込むと、唇の端をわずかに持ち上げた。
「私たち、もっと話さないとね。戦うだけじゃなくて」
羽青は、無意識に木刀を握りしめた指をほどいた。
そして、もう一度まっすぐに黒ドレスの少女を見た。
「……その前に服を着たい……けど……」
「それもそうね」
黒ドレスの少女は、指を鳴らした。
すると、部屋の隅にあった黒い箪笥がひとりでに開き、淡い紫色のドレスと、柔らかそうな白い下着が宙に浮かんだ。
それを目の前に差し出しながら、
「あなた、本当に人間? 本当に…魔界の血を引いていないの?」
「わからない。でも…」
羽青は木刀をそっと床に置き、浮かぶ衣服を受け取った。
「…少なくとも、私自身の意志で、ここにいる」
その声は、小さく震えていたが、
どこかしっかりとした重さがあった。
黒ドレスの少女はゆっくり、と微笑んだ。
「……いいわ。ようこそ、魔界へ……人界のお嬢さん(笑)」
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