第6話

魔界。魔王の間は薄暗く、巨大な燭台に灯る紫色の炎が床に揺れる影を落としていた。

玉座に腰かけた魔王は、赤黒い外套を羽織りながら不機嫌そうに顎をさすっている。


「魔導師は戻ったか?」


玉座の脇に控えた部下が慌てて一歩進み出た。

「はい、先ほど帰還いたしました」


「報告は?」


「ただいま、分析中とのことにございます」


するとその後ろから、すっかり疲れ切った顔の魔導師がふらふらと現れた。

「……魔王様……」


「魔導師、よく戻った」

魔王は目を細めた。

「何か得るものはあったか?」


魔導師は両手に抱えた布を一枚ずつ掲げ、真顔で告げた。

「……神の関係者、約二名の所持品の奪取に成功いたしました」


「なぬ? 所持品……?身柄では無く?」

魔王は一瞬呆気にとられた。


「所持品です」

魔導師は淡々と繰り返した。


「……魔導師……お前……」

魔王はこめかみを押さえた。

「その所持品とやらは何だ」


魔導師は顔色ひとつ変えず、小さな布をひらひらと掲げた。

「……下着と? 思われます」


「……?」

魔王の表情が完全に固まった。


「現在、全力で分析中でございます」

魔導師は真剣な顔で答えた。


「……なんの分析だ」

魔王の声が震えた。


「おそらく……これらの所持品は、所有者の体内から分泌された物質を多く含んでいるかと推測されます」


「……よくわからんが……でかしたぞ魔導師」

魔王は無理やり話を前に進めた。

「分析を急げ。どんな些細な情報も神の勢力に対抗する糧になる……はずだ……たぶん……」


「了解いたしました」

魔導師は深く頭を垂れると、部下とともに足早に分析室へと去っていった。


しばらく玉座の間に沈黙が満ちた。

そして魔王は天を仰いで小さくつぶやいた。


「……我が国はどこへ向かっているのだろうな……」

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