第5話

魔導師は額に手を当て、深く息を吐いた。

「あの……確認して……ください」


白巴菜は半眼で睨む。

「なんの確認?」


羽青は肩をすくめて言った。

「下着はちゃんと着ているけど」


「それは……わかっています」

魔導師の声がやけに弱々しい。


「なんで知ってるの?」

白巴菜は眉をひそめ、距離を取るように体を引いた。


羽青は思い出したように指を立てた。

「さっき白巴菜、自己申告しなかったっけ? 『普通に着てる』って」


魔導師は顔を赤らめ、俯いた。

「……お前ら……バカだろ!」

それはほとんど呟きに近い声だった。


「……?」

白巴菜は不満げに首を傾げる。


「私は違うけど」

羽青は視線を横に向けると、少し口角を上げた。

「こっちの子は……そうかも?」


白巴菜を指差す羽青に、白巴菜は素早く振り返り、頬を赤くして怒鳴った。

「はあ!? なに勝手に人の知能レベル決めてんの!?」


「でも、ほら……なんか……」

羽青は少しだけ笑いをこらえながら言った。


魔導師は頭を抱え、肩を落とした。

「……やっぱり、だめだ、この空気……」


不毛な問答だけが、結界の中に延々と響いていた。



魔導師は情けない顔で両手を上げた。


「……実はさっき、二人の理性を奪ったのです」


「なぬ?」

白巴菜が目を剥いた。


「理性って? なに?」

羽青は素朴に首をかしげる。


「そしたらー……御二人が欲情されましてー……」

魔導師は視線を泳がせ、声を小さくした。


「してないけど?」

白巴菜は呆れた顔で言い返した。

「証拠は?」


「……欲情って? なに?」

羽青は真顔で問いかけた。


「……あのー……帰っていいですか?」

魔導師は心底疲れ切ったように俯いた。


「羽青、欲情した?」

白巴菜は隣の妹を確認する。


「だから、欲情ってなんなの?」

羽青は無垢な目をしていた。


「……欲情とは……情欲のことで御座いますす……」

魔導師の声が震え、語尾は消え入りそうだった。


「説明責任を追求する」

白巴菜は手を腰に当てて魔導師を睨んだ。


「同じく追求する」

羽青も隣で真面目にうなずいた。


魔導師は両手で顔を覆った。

「……だめだ……もう帰る……魔導結界次元ゲート開けるから……お前ら……自由にしてくれ……」


そう言って魔導師は結界を解除し、結局、どこかへと消えていった。


残された二人は顔を見合わせて肩をすくめた。


「……何?あの人?」

羽青がぽつりと呟いた。


「知らん……けど、変態なのは間違いない」

白巴菜は深くため息を吐いた。

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