成功済自己虚像
加賀倉 創作【FÅ¢(¡<i)TΛ§】
これはフィクションである。
私はとある創作者だ。
何でもいいが、とにかく創作の類で、成功した(成功の定義は読者諸賢に任せることとする)。
成功した、と言うからには、作品に、高い評価がついた(高い評価というのが何をさすのかは、読者諸賢のご想像にお任せする)。
以来、作品を多く生み出し(多く、の定義もこれまたお任せする)、ありがたいことにその度ごとに、概ね高い評価を得てきた。
ここで、ひとつ企みがある。
読者諸賢を、ちょっくら試してやろうかと思う。
というのも、「この創作は面白い、だからこの人はすごい」というのが、「この人はこれまでの実績からしてすごいらしい、だからこの創作も面白いはずだ」になってきてはないだろうか、とふと疑問に思ったのである。
そこで試しに、支離滅裂な何の意味も汲み取りようのないはずの語の羅列を、文学として出してみた。
案の定、読者諸賢からは、絶賛の嵐である。
その文学というのは、AIに出力させたものに過ぎない、のだが。
また、試しに、黒一色の絵を出してみた。
やはり、読者諸賢からの絶賛の嵐。
その黒一色というのは、近所の百円ショップで買った真っ黒な画用紙を、たいそうな額縁に入れただけ、なのだが。
──答えは出た。
私は、私が一度作り上げた成功済自己虚像に、本当の私を、乗っ取られてしまっている。
そんなものは、私ではない。
私の創作は、もはや私の創作がいつもよいからいつも高く評価されるのではなく、私の創作だから全てすべからくよいだろう、という現代科学を筆頭とするインチキ宗教よろしく極度に雑な演繹的推論からくる、事実上の思考停止評価によって、不当に、悪い意味で良く評価されてしまっている。
これは、いけないと思った。
そして私は……
創作をやめることにした。
今から、この碌でもないハリボテの肉体に火を放ち、魂を解放してやるつもりだ。
ちなみにそれは単に比喩で、好きでもないのに塗られてしまったメッキの表層を高温融解せねばならない、という意味に過ぎない。
虚ろな私よ、さらば……
〈了〉
成功済自己虚像 加賀倉 創作【FÅ¢(¡<i)TΛ§】 @sousakukagakura
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