第47話 弁当屋が!

 茨城県石岡市――。

 県道沿いにポツンと建っていた小さな弁当屋が、未明に全焼した。


 店の名は――「ふぎょぎよ」。


 どこかの方言か、呪文か、あるいは単なる悪ふざけか…その名前の由来は最後まで誰にもわからなかった。

 そして味もわからなかった――いや、**「味がわからなかった」**というのが正しいかもしれない。



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 噂


「なんか…米が、洗剤の味した」


「唐揚げがピンク色だったんだけど…」


「弁当開けた瞬間、犬が吠えた」


「“死にたいの?”って書かれた紙が入ってたらしい」



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 地元の若者の間では、都市伝説的存在だった。

「ふぎょぎよチャレンジ」――完食すればSNSで“神”扱い。


 一方で、弁当の写真を載せただけでアカウントが凍結されたという者もいた。


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 そして、あの夜。


 7月某日、午前3時24分。通報により駆けつけた消防隊が目にしたのは、真っ赤に燃える「ふぎょぎよ」と、壁に赤いスプレーで書かれた文字だった。


> 「お前の舌が犯罪だ」



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 捜査線上に浮かんだのは、

 かつてこの店で食中毒を起こした高校生。

 怒りのレビューを投稿して営業妨害で訴えられた主婦。

 取材に訪れ、味見してその場で倒れた地元ライター。


 だが、どれも“燃やす動機”には弱かった。



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 町に残ったもの


 黒焦げの厨房


 真っ黒になった“焼き魚弁当”のサンプル


 弁当箱に貼られた謎のシール「味の宇宙へようこそ」


 そして、あの言葉…



> 「ふぎょぎよって、誰?」


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 この町にはまだ、語られていない“何か”がある。

――それは、味か、怨みか、あるいは呪いか。




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