第42話 西国転記隊
――その夜、偕楽園にて。
月光に照らされた梅の木々の間に、重く冷たい風が吹き抜けた。
水戸光圀は、静かに茶を啜っていた。目を閉じ、記憶の気配を探る。
剣豪たちが集まり、“茨城記録維新隊”が結成されたとはいえ、光圀は感じていた。
この地に、もう一つの“意志”が近づいていることを――
――そこへ、風に乗って、血と鉄の匂いが届いた。
「……来たか」
地鳴りのような足音。
偕楽園の正門が音を立てて崩れ落ち、黒漆の甲冑に身を包んだ巨大な影が姿を現した。
その男こそ、毛利元就。
かつて中国地方を統一し、「三本の矢」の知略で知られた戦国の大軍師。
だが今、彼は過去の姿ではなかった――その顔は蒼白く、眼窩は落ちくぼみ、まるで死者の王のような雰囲気を纏っていた。
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「水戸光圀……お主の“記録”は、もはや時代に合わぬ」
「……毛利元就、なぜ現代に蘇った」
「貴様の“記録主義”は、弱者を救わぬ。歴史とは勝者が綴るもの――我が“
元就の背後には、戦国の亡霊たちが控えていた。
吉川元春――鬼の副将、重厚な金棒を携えて。
小早川隆景――影の策士、煙のように姿を変える。
陶晴賢――裏切り者の将、死してなお怨霊となり。
彼らは「西国転記隊」と名乗り、歴史そのものを書き換える力を持っていた。
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「この茨城の地を、我らが“西国史観”に塗り替える。
そして貴様、水戸光圀の名を“歴史から抹消”してくれる」
「ぬぅ……ふん、ならば来るがよい」
光圀が立ち上がると同時に、背後から剣士たちが現れた。
荒木又右衛門は刀を抜き、血風をまといながら叫ぶ。
「俺ァ記録じゃねぇ、“証言”として生きてきた男だ!」
塚原卜伝の亡霊は、杖のような木刀をゆらりと構える。
「技は記録に残る……お主らの偽史には興味がない」
九尾ノ影が笑い声を上げる。
「記録の炎、舐めちゃいけないよぉ。うふふふふ……!」
そして、記録の剣士・小池強志が、ノートを手に前へ出る。
「……“史実”も“嘘”も、この目で見て、この手で書く。
お前らの“勝者だけの歴史”なんて、クソ喰らえだ」
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かくして、水戸維新隊VS西国転記隊、
“記録を巡る戦争”が、梅の香る夜に幕を開けた。
その戦いは、刀や火矢だけでは終わらない。
それぞれの「時代観」や「記憶」、「証言」、「編集権」そのものがぶつかり合う――
まさに“史の内戦”だった。
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最初に動いたのは吉川元春だった。金棒が地面を抉り、荒木又右衛門が受け止める。衝撃で周囲の木々がなぎ倒される。
「へっ、上等だ!」
一方、小早川隆景の幻影が九尾に忍び寄るが、九尾の銀尾が爆ぜ、瘴気を撒き散らす。
そして、光圀と元就――二人の老将は、互いに“巻物”を開いた。
光圀の手には「大日本史」、元就の手には「黒史書」。
その二つが交差する瞬間、時代そのものが歪み始めた。
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強志は叫んだ。
「このままじゃ……歴史が壊れる!」
ノートを開き、強志は新たな章を記す。
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《記録 第零章》
真実は、勝者にも敗者にも宿らず
――目撃者と、記録者にのみ与えられる
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その文字が書かれた瞬間、空が裂け、未知の力が降り注いだ。
“記録の守護者”が覚醒する――その名は、
「
手にしたペンは筆となり、光の剣と化した。
そして、彼は叫んだ。
「水戸の歴史を、俺が守る!!」
史実を巡る、超歴史級バトルの幕は――まだ、上がったばかりである。
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