第39話 また弱者が苦しんだ
豚熊の家で焦げ跡を見つけた強志と犬上は、不穏な空気を感じながらも、その日は引き返した。豚熊の安否は依然として不明のまま。山内哲也の死と、中学時代のいじめの記憶が、強志の心を深く重く沈めていた。
そんな彼らの焦燥をさらに掻き立てる、新たな事件の報が飛び込んできた。
その日の夜遅く、強志の携帯電話が鳴った。犬上からだ。
「強志!今ニュース見たか!?」
犬上の声は、ひどく動揺していた。
「どうしたんだよ、こんな時間に」
強志は寝ぼけ眼で答えた。
「
強志は、一瞬にして眠気が吹き飛んだ。五霞町は、常総学院からも比較的近い場所だ。そして、障害者が蹴飛ばされる――その行為の悪質さに、強志の胸はざわついた。
「詳細がまだはっきりしねぇんだけど、どうやら何人かの若者が、夜道で車椅子に乗った障害者を執拗に蹴りつけて、そのまま逃走したらしい……。被害者は重傷だって」
犬上の説明を聞きながら、強志の脳裏には、過去の事件の断片が次々と浮かび上がった。中学時代の豚熊へのいじめ、土浦で強志たちを煽った暴走族「霞ヶ浦レクイエム」の暴力性、そして、坂東クーデターで赤堀が率いていた幸手ファントムズの連中の凶暴性。これらの事件の根底に流れる、**「弱者への一方的な暴力」**という共通項に、強志は背筋が凍る思いがした。
翌日、学校でも五霞の事件が噂になっていた。教師たちは生徒たちに注意を促し、不審な人物を見かけたらすぐに通報するよう呼びかけた。しかし、強志の心は、表向きの注意喚起とは別の方向へ向かっていた。
強志は、犬上と昼休みに食堂の片隅で顔を合わせた。
「五霞の事件……やっぱり、あいつらと関係があるのか?」強志は、小声で尋ねた。
犬上は難しい顔で頷いた。「まだ分かんねぇけど……手口が似てるんだよ。目的もなく、ただ人を傷つけようとするあの感じ」
強志は、ペンを握る手に力を込めた。山内の死、豚熊の失踪、そして今回の五霞の事件。点と点が、まるで不気味な模様を描くように繋がりつつあった。
彼の作家としての直感が叫んでいた。これらは、単なる偶然の出来事ではない。何か巨大な闇が、この茨城の地で蠢いている。そして、その闇の根源は、強志がこれまで遭遇してきた理不尽な暴力、そして社会の歪みと深く結びついているに違いない。
強志のノートには、新たな見出しが刻まれた。
「五霞、弱者への暴力」
この事件は、強志の「物語」に、さらなる絶望と、しかし同時に、それを乗り越えようとする強い意志を刻み込むことになった。彼は、この一連の出来事を通して、何を見つけ、そして何を描こうとするのだろうか。
佐貫を殺したのは3年生の
高倉を逮捕したのは茨城県警の
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