第38話 黒焦げ死体

 2000年5月。佐貫先生の死、そしてそれに伴う県外移動の厳格化によって、強志たちの日常は閉塞感を増していた。そんな中、強志は衝撃的なニュースを目にした。


 街の電柱に貼り出された速報に、強志は目を疑った。そこには、「常陸大宮市にて、男性の黒焦げ死体発見」という見出しと共に、身元判明の報が記されていた。

「身元判明:山内哲也(20歳、常陸大宮市在住)」

 強志は、その名前に凍りついた。山内哲也――それは、彼の中学時代に、クラスメイトの豚熊太郎ぶたぐまたろうを執拗にいじめていた上級生の名前だった。豚熊はその名前のとおりデブっていて、動きもトロく格好の標的だった。

 中学時代の山内は、周囲を威圧するその態度と、人を支配することに快感を覚える歪んだ性格で、大人しい豚熊を容赦なく苛め抜いた。無視、暴力、金銭の要求、そして精神的な追い込み。強志たちは、目の前で繰り広げられる地獄を、ただ傍観することしかできなかった。止めたいと思いながらも、山内の恐怖に屈し、何もできなかった自分への不甲斐なさが、強志の心に深く刻まれていたのだ。結局、豚熊は中学の途中で転校していき、強志は彼に何もしてやれなかった後悔を抱え続けていた。

 その山内が、黒焦げの死体で発見された。強志は、信じられない思いで新聞記事を見つめた。なぜ、常陸大宮で? そして、なぜ、そんな凄惨な死に方をしたのか? 強志の脳裏には、赤堀の顔が浮かんだ。そして、土浦で彼らを脅した**「霞ヶ浦レクイエム」**。さらに、佐貫先生の死と、その背後にあるかもしれない闇。強志は、これらの出来事が、まるで一本の太い線で繋がっているような、不気味な感覚に囚われていた。

「まさか……」

 強志は、自分の知る世界が、想像以上に深く、暗い陰謀に包まれているのではないかという疑念を抱き始めた。作家を志す彼の心の中で、この事件は、単なる過去の因縁の清算としてだけでなく、彼が描こうとする物語の、より深い層へと彼を引きずり込む、新たな引き金となった。

 強志は、すぐに犬上に連絡を取った。この事件が、強志たちの新たな「戦い」の始まりを告げるものとなるのか。そして、その背後には、一体何が隠されているのだろうか。

 

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