第22話 結城合戦外伝 ―南栗橋レッドサイクル事件―
翌週、強志は一人、南栗橋駅にいた。
目的は――中古CDショップ《ステレオ爆音堂》。
尾崎豊のレアライブ音源が入荷したと、翔太から聞いたのだ。
「電車代ケチってチャリで来るって、我ながら昭和かよ……」
そうぼやきながら、駅前の駐輪場に自慢の赤いチャリ《ハリケーンGX》を停めた。
中古で買ったボロだが、強志がスプレーで全塗装し、手入れも欠かさずしてきた愛車だ。
――だが、店から戻ると、チャリは忽然と姿を消していた。
「……は?」
目を疑った。駐輪場の鉄柵には、ポツンと切れたワイヤーロックだけが残されていた。
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駅前交番に駆け込んでも、「また自転車盗かぁ」と気のない返答。
目撃者もなく、防犯カメラも“死んでいた”という。
唇を噛みしめながら、強志は自販機でミルクティーを買った。
そのとき、背後から声がした。
「おい、お前……チャリ、赤いやつだったか?」
振り向くと、土木作業員風の兄ちゃんが、スマホを見せてきた。
そこには、南栗橋駅の裏道を走り抜ける“赤いチャリの影”――そして、乗っていたのは、見覚えのあるあの顔だった。
「……赤堀……!」
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あの“結城合戦”のあと、逃げるように町を離れたはずの赤堀龍二。
だが、奴はまだこのあたりをうろついていたのだ。
「おい犬上、今どこだ?……いやいい、迎えに来てくれ。南栗橋だ。チャリ奪われた。犯人、赤堀」
〈了解〉という一言の後、電話は切れた。
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夜――。
強志と犬上は、駅裏の空き工場跡地に着いた。
そこには、赤堀とその新しい仲間たち――“幸手ファントムズ”のガキどもが焚き火を囲んでいた。
その輪の中に、赤く塗装が剥げたハリケーンGXが置かれていた。
「よう……“結城のチビ”じゃねぇか」
赤堀はタバコをくわえ、憎たらしく笑った。
「チャリ一台で何しにきた?お前が殴った右腕、まだ痛むんだよ。だから今度は“こっち”の番だ」
周囲のガキどもがナイフや鉄パイプを構える。
犬上が小声で言う。「やべぇな、人数多すぎる……どうする?」
強志は、ゆっくりと一歩、焚き火の明かりの中へと進み出た。
「……これはチャリの問題じゃねぇ。あの日、逃げたお前の“魂”の話だ」
「はあ?中二かよ、まだ“合戦”とか言う気かよ」
「言うさ。俺のチャリはな、“この町を越えてく勇気”だったんだよ。
それを盗んだってことは……また、お前とやるってことだ。赤堀」
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その瞬間、尾崎豊の曲が鳴った。
犬上が持ってきた旧式スピーカーが、**「17歳の地図」**を流し始めた。
闘いの火は再び灯った。
チャリを賭けた“第二次・結城合戦”が、南栗橋の空き地で静かに幕を開けた――。
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