第21話 『結城合戦』―終章:告白の夜―

 あれから数日が経った。

 “結城合戦”の噂は、町の不良たちの間で広まり、赤堀龍二はリーダーの座を退いた。

 結城セイレーンは自然崩壊し、駅前ロータリーにはようやく静けさが戻ってきた。


 強志はというと、少しだけ有名人になっていた。

 あの夜の姿を見ていた誰かが、動画をネットに上げたのだ。

 鉄パイプを振り上げるシルエット。尾崎の曲。震える拳。

 再生数は、数日で二万を超えた。



---


 放課後。中庭のベンチで、強志は焼きそばパンをかじっていた。

 そこへ、女子が一人、また一人と現れた。


 「強志くん……あの、ちょっと話があるんだけど……」


 「……あ、うん」


 その日、三人の女子に告白された。

 一人は水泳部の巨漢。二人目は文学部の根暗系。三人目は家庭科部で常にマスクをしていたが、明らかに肌荒れが酷い。


 そしてなぜか全員、ひと言目にこう言った。


 「私、ブスってよく言われるけど……それでも、強志くんのことが好き」


 強志は返事に困った。


 (なぜだ……モテたいと思ってはいたが、なんだろうこの“選ばれしブスたち感”は……)


 ベンチの隣で見ていた犬上が、にやけながら小声で言った。


 「お前、なんか知らんけど“ブスキラー”として覚醒してるぞ。俺の派遣先にも噂まわってたわ」


 「……派遣先の工場、結城だろ。おっさんの世界でなにが広がってんだよ」


 そのとき、遠くから翔太が歩いてきた。セブンスターをくわえ、空を見上げながら。


 「……まあ、どんな女にだって、愛されるのは悪くねぇさ。ブスとか美人とか、結局“見る側”の価値観だろ?」


 翔太はそう言って、強志の頭を軽くはたいた。


 「ただな……強志。選ぶのは、お前だ」


 強志は、三人の告白を聞いて丁寧に頭を下げた。


 「ありがとう。でも、今は……まだ、自分のことで精一杯なんだ」



---


 夜。

 再び駅前ロータリーに立った強志は、あのときと同じように空を見上げた。


 あの夜、見えなかった星が、いまは一つだけ輝いていた。


 「ブスだって、関係ないよな……俺が、ちゃんと見られる目を持てるかだ」


 焼きそばパンの袋を握りながら、強志はゆっくりと歩き出した。


 これはきっと――**自分という男の“序章”**なのだと、そんな気がしていた。





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