第23話 幸手ファントムズ来襲!

 その瞬間、尾崎豊の曲が鳴った。犬上が持ってきた旧式スピーカーが、**「17歳の地図」**を流し始めた。アコースティックギターの切ないイントロが夜の闇に吸い込まれ、すぐに尾崎のあのハスキーな歌声が響き渡る。

「てめぇら、こんなとこで何やってんだ!」

 突如、空き地の外から怒号が響いた。振り返ると、スーツ姿の男たちが数人、一斉に懐中電灯の光をこちらに向けている。その中心には、見慣れない制服を着た警官らしき人物もいる。

「な、なんだよ!」幸手ファントムズのガキどもが動揺し、構えていたナイフや鉄パイプを下ろす。

「ここは許可なく立ち入っていい場所じゃない。それに、未成年がこんな時間にたむろして、何をしている!」警官が厳しい声で言い放った。

 赤堀が舌打ちをする。「ちっ、ツイてねぇな……」彼は強志を睨みつけ、吐き捨てるように言った。「今日はこれで終わりじゃねぇからな、チビ!」

 幸手ファントムズの連中もざわつき始め、焚き火を囲んでいた輪が崩れていく。赤堀は仲間たちに目配せし、そのまま闇の中へ逃げ去った。強志は追うことなく、ただその背中を見つめていた。

 警官たちは幸手ファントムズの残党を取り調べ、空き地は騒然となった。強志と犬上は、その混乱に乗じてハリケーンGXを取り戻すことに成功する。  塗装が剥がされ、痛々しい姿になった愛車を前に、強志は静かに拳を握りしめた。

「ったく、あのクソ赤堀……。これ、どうすんだよ、強志?」犬上が心配そうに尋ねる。

「直す。何回でも、直すさ」強志は答えた。「そして、いつかあいつを…真っ当な場所に引きずり出してやる」

「強志……」

 尾崎の歌声は、まだ夜空に響いていた。

「……なぁ、犬上。俺、もう一度、尾崎のライブ行きてえな」強志は呟いた。

 犬上はニヤリと笑う。「いいぜ。そん時は、お前がチケット代おごれよな」

 尾崎豊が蘇ったのだ。新曲『不思議な街』はいい曲だ。

 

 翌日。

 強志はハリケーンGXを修理するため、近所のホームセンターで塗料と工具を買い漁っていた。その帰り道、彼と犬上は、南栗橋駅前に異様な人だかりができているのを目にする。

「なんだあれ?」犬上が訝しげに目を凝らす。

近づいてみると、駅前の一角に立ち入り禁止のテープが張られ、消防車や救急車、さらにはテレビ局の中継車までが駆けつけていた。

「速報です!先ほど、南栗橋駅近くにある**大手製薬会社『ライフ・サイエンス』の工場で、大規模な爆発事故が発生しました!**現在、複数の負傷者が出ている模様で、周辺住民には避難が呼びかけられています……」

 テレビ局のアナウンサーが緊迫した表情で伝える。

 強志と犬上は、顔を見合わせた。南栗橋駅周辺は、彼らにとって因縁の場所だ。そして、昨夜の赤堀との一件……。

「まさか……」

 強志は、漠然とした不安に駆られていた。この爆発事故が、赤堀、そして幸手ファントムズと、何らかの形で繋がっているのではないかと。

 南栗橋の空に、黒煙が不気味に立ち上る。尾崎の歌声が再び強志の頭の中で鳴り響く。今、この町で、新たな何かが動き始めていた。

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