第18話 結城合戦

 その夜、結城市の駅前ロータリーは、いつもと違う緊張感に包まれていた。

 街灯の下には、暴走族崩れのチーム“結城セイレーン”のメンバーがたむろし、

 その中心には、翔太の元舎弟だった赤堀龍二(20歳)がいた。


「翔太?あいつはもう終わったんだよ。こっちは本気で仕切ってんだ。田舎のガキが口出すなや」


 強志は、翔太と犬上とともにその場に立っていた。

 翔太がかつて守っていた場所が、今や暴力とドラッグの巣窟になっていることに、怒りを抑えきれなかった。


「……ふざけんな」

 強志が呟いた。

「俺たちの土地を……お前らが汚していいわけねえんだよ」


 笑い声が響いた。


「なんだその背丈で……また“チビ”かよ?中学生は黙ってろ」


 だが、そのときだった。


 パンッ――!


 乾いた銃声が空気を裂いた。

 赤堀の腰に差していた改造モデルガンが火を噴いたのだ。


「伏せろ!!」翔太が強志を庇いながら叫ぶ。


 二発目、三発目――。

 犬上はとっさにポケットから催涙スプレーを取り出し、応戦。翔太は側溝のふたを盾にしながら突っ込んだ。


 強志の鼓動が速くなる。

 震える手で、落ちていた鉄パイプを握った。


「……逃げろって言われると思ってた?」

 唇を噛みながら、強志は赤堀へと歩を進める。


「違うよ。これ、俺の戦だ。俺が生きてる証明を……ここで、刻む」


 その瞬間――

 強志のウォークマンが、自動再生で**尾崎豊の「銃声の証明」**を再生する。

 俺は貧しさの中で生まれ 親の愛も知らずに育った

 暴力だけが俺を育てた 街角で娼婦の客をとり

 路地裏で薬を売りさばきだけどそれも俺の仮の姿

 ある日 役目をまわされた 政治家を一人殺るやまさ

 跳べと言われれば今の俺には それしか生きる術がない

 Woo 渇いた銃声が 奴の頭をぶち抜いた

> ♪



 曲とともに、強志の鉄パイプが唸りを上げる。

 赤堀の右腕を叩き落とし、モデルガンが地面に転がった。


 血が流れる。

 強志の拳も震えていたが、彼は立っていた。

 暗闇の中、仲間とともに。


 戦いのあと、強志は、倒れ込む赤堀を見下ろして言った。


「……この街で俺が立った日。俺は“結城合戦”って名付けるよ。

 逃げねぇって、決めたから」


 犬上が苦笑しながら言う。「中二病っぽいけど……でも、いい名前だな」


 翔太も煙草に火をつけながら言った。


「お前、もうチビって呼ばれねぇよ。立派な“男”だ」


 その夜、星は見えなかった。

 けれど、強志の中で燃えるものは、たしかに光っていた。




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