第17話 厳しい現実

 その週末の夜、強志たちは翔太の言葉どおり、駅前のロータリーへと繰り出していた。

 ベンチに座る女子高生二人組。

 髪を巻いて、スマホ片手に笑い合っている。


「……よし、行ってこいよ。強志」

 翔太がニヤリと肩を叩いた。


「え、マジっすか……」


「いけるって。背ぇは気にすんな。お前には“心”があるだろ」

 犬上も、ぎこちなく笑った。


 緊張しながら、強志はゆっくり歩き出す。足が重い。けれど、それでも声をかけた。


「こんばんは。あの、よかったら……ちょっとだけ、話しません?」


 女の子たちは、ぴたりと笑いを止め、強志を上から下まで見て言った。


「え……ちっさ……」

「中学生かと思ったー!ごめん、無理、キモいって」

「てかナンパすんなよ、チビ!」


 笑い声が弾けた。強志の胸に突き刺さる音。


「……あっそ。こっちだって選ぶ権利ぐらい、あんだよ……」

 何とかつぶやいてその場を去ったが、心の奥に渦巻く感情は抑えられなかった。



---


 夜の公園。滑り台の横のブランコに、強志はひとりで腰を下ろしていた。

 口を結び、震える手で、ウォークマンのイヤホンを耳に差し込む。

「十七歳の地図」――尾崎豊。

 十七のしゃがれたブルースを聞きながら

 夢見がちな俺はセンチなため息をついている♪


 雨上がりの湿った風が吹く中、歌詞が強志の心の奥をなぞるように響いた。

 悔しさ。恥ずかしさ。怒り。そして、自分が“何者にもなれていない”という現実。


「ふざけんなよ……」

 拳を握りしめ、ブランコから立ち上がる。


「ふざけんなよ……!」

 公園のベンチを蹴り飛ばし、ペットボトルを投げ、手近なゴミ箱を倒した。


「なんで……なんで俺は……!」

 叫び声と一緒に、涙が頬をつたった。


 遠くで犬の鳴き声。誰かの通報か、パトカーの赤色灯が一瞬、公園をかすめて通り過ぎた。


 強志は、うずくまる。イヤホンの中では、今度は**「卒業」**が流れ始めていた。


 その言葉が、不思議と少しだけ強志を落ち着かせた。


「……俺、変わりてえよ」

 呟いた声は、誰に届くわけでもない。


 だけど、夜の中でそのひとことだけは、確かに未来へ向かっていた。


 仕組まれた自由に誰も気づかずに

 あがいた日々も終る

 この支配からの 卒業

 闘いからの 卒業


 曲が終わった。

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