第16話 ナンパ作戦
夜8時すぎ、部垂のコンビニ前――。
白い蛍光灯の下、プラスチックのベンチに腰かけ、3人は缶コーヒーとカップ焼きそばを手にしていた。
虫が寄ってくるたびに犬上が軽く手で払い、翔太はふかしたタバコの煙を夜空に吐いた。
「部垂も変わんねぇな。コンビニの前に溜まって、こうしてタバコ吸ってる感じ……」
「昭和かっての」と犬上が笑う。「でも落ち着くっすね、ここ。中学の頃も、夜にみんなでここ来て、アイス食ってましたよね」
「おう、で、お前らんちに親がいない日には、そのままゲーム三昧だ」
翔太は懐かしそうに笑いながら、くしゃっと焼きそばの容器を握り潰した。
強志は、焼きそばの青のりを気にしながら口を拭き、ふと聞いた。
「先輩、女とか、どっかで会ったりしてるんすか?」
「は?そりゃ……ちょこちょこな」
翔太は急にえらそうに鼻で笑った。「駅前のイオンでさ、バイトの子にLINE聞いたりしてんだよ。まあ、声のかけ方にも“型”があんのよ」
「型っすか?」
「まず“迷ってるフリ”だな。たとえばさ、レジ前で“これとこれ、どっちが人気あるんすか?”って。そこから話をつなげる」
「……完全に下心じゃん」と犬上が呆れる。
「バカ、お前もやれって。夏休みだぞ?今しかねーって。つか、土曜の夜、駅のロータリーにかわいい子、けっこう来てんだよ。ちょっと行ってみっか?」
「えっマジで……」
「犬上、お前もメガネ外してワックスつけてさ、“東大志望っす”とか言えば、意外とモテるんじゃね?」
「え、いや、それって逆にハードル上がりません……?」
3人の笑い声が、夜のコンビニ前に響く。
タバコの火が短くなる。焼きそばの湯気も消えて、夜風がゆるやかに吹いた。
強志は缶コーヒーを飲み干しながら、小さくつぶやいた。
「……でも、こんな時間、ずっと続くわけないんすよね」
翔太も犬上も、一瞬黙った。
だが、翔太は再び笑って言った。
「だから、今しかできねーこと、全部やっとけ。失敗してもいいからさ。ダセえことも、ガキっぽいことも、後で笑えるように」
強志はうなずいた。
ナンパの計画は、まだフワッとしていたけれど、仲間と過ごすこの夜だけは、確かに何かが始まる予感がしていた。
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