第15話 キャッチボール

 夕暮れの公園。蝉の鳴き声がまだ残る空の下、小池強志は古びたグローブを手に、懐かしい感触を確かめていた。

 目の前にいるのは、部垂の伝説的ヤンキーだった先輩・北島翔太。19歳、金髪に赤いラインの入ったジャージ姿。数年ぶりの再会だった。


「よっ、強志。お前、背伸びたな。まだチビのまんまだと思ってたけどよ」

 そう言って翔太は笑い、ボールを軽く投げてきた。受けた強志の手がじんと震える。


「先輩こそ……変わってないっすね。てか、今何してんすか?」


「んー、土木やってる。朝早えけど、まあ、悪くない。体動かしてりゃ、余計なこと考えねーしな」

 翔太のグローブから繰り出されるボールは、昔と変わらず重く、まっすぐだった。


 その横で見ていたのは、同級生の犬上利昭。メガネをかけた理系男子だが、強志とは気が合う。


「将来、か……」犬上がつぶやく。「俺、東京の情報系の大学、受けようと思ってんだよ。で、ハッキングとかセキュリティとか、そういう仕事に就きたい」


 翔太が「ハッキングぅ?お前、映画の見すぎじゃねえの?」と茶化すと、犬上は照れ笑いを浮かべた。


「でも、そういうの、これから必要になってくるって言われてるし。俺、田舎出ても通用する人間になりたいんだ」


 強志は沈黙し、ボールを見つめる。

 何になりたいか、自分でもまだわからない。だけど――


「……俺も、誰かに舐められない人間になりたいっすね」

 その言葉に翔太はニヤリと笑った。


「だったらまず、ボールしっかり投げろ。気持ち込めてみろよ」


 強志はうなずき、全身で投げた。

 そのボールは、まるで未来へ向かって一直線に飛んでいくようだった。


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