第43話封筒が戻った朝
翌朝──草間製作所。
社長室の机の上に、青い封筒が“そっと”置かれていた。
封はマスキングテープで丁寧に留め直され、朱書きの「重要」の文字も無傷。
中を確認した草間社長は、思わず椅子に崩れ落ちた。
「……帰ってきた……!」
それはまるで、旅に出ていたペットがひょっこり帰ってきたかのような光景だった。
だが、問題は──誰が、どんな意図で戻したのかである。
「助手殿、我らが“ギャグ界のサグラダ・ファミリア”が帰還したぞ!」
「なんで建築物にたとえるの!? 途中まで未完成だったって意味ですか!」
ミナは封筒を慎重に手に取り、指で封の部分を確認する。
「うーん、これ……貼り直した痕跡がある。つまり、一度開けられてますね」
「ふむ……では、これは“ギャグを開帳された後の封印”──“再ギャグ封印事件”じゃな」
「その事件名、長すぎてラベルに書けないですからね」
そのとき、社長室のドアがノックされ、一人の社員が入ってきた。
それは──新人の沢村みどりだった。
「社長……あの……すみません、わたし……あれ、見ちゃってて……」
「ほう、白状したな!」
マヨイが身を乗り出す。
沢村はペコリと頭を下げたあと、意外な言葉を口にした。
「でも、見たのは……わたしじゃないです。封筒、社内に出回ったあと、
“これはマズい”って思って、みんなに回収呼びかけたんです。
封筒、最後に拾ったのは……わたしです」
「つまり、“封筒の回収者”ってわけですね?」
ミナが確認する。
「はい。ちゃんと封をして、机に置いておきました……ほんとは、謝ろうと思ってましたけど……」
社長は、ゆっくりと椅子から立ち上がり、彼女の前に歩み寄った。
「ありがとう。……みんなが笑ってくれて、嬉しかったよ。
たぶん、あのネタじゃウケないって思ってたけど……それでも、
少しでも誰かが笑ってくれたなら、それだけで十分なんだ」
「社長……」
マヨイがじっと、二人のやりとりを見守っていた。
「うむ……真犯人は社内の“笑い”だった、ということか」
「いやうまいこと言ったつもりかもしれませんけど、真犯人ちゃんと出てきましたよね?」
それでも、事件はこうして穏やかに幕を閉じた。
封筒は帰り、ネタは社内で微妙にバズり、
社長は“伝説の寒ギャグ王”として社内ミームにされた。
こうしてまた一件──
“迷探偵と助手”の不思議な事件簿が、記録に刻まれたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます