第41話ネタ帳の謎、深まる疑惑

 「助手殿……わしは今、非常に大きな“笑いの闇”に触れている気がするのじゃ」


「“笑いの闇”って何ですか。社長のネタより深い話にしないでください」


 


事務所に戻ったマヨイとミナは、社内で集めた証言を整理していた。

封筒を金庫から持ち出したのはおそらく社内の誰か──その可能性は濃厚になってきている。


 


「でも奇妙ですね……ネタ帳は盗まれたんじゃなくて、“読まれて拡散”された感じがします」


ミナが言った。


「うむ、つまり犯人は“情報共有タイプの陽キャ”か……」


「推理に陽キャ陰キャ持ち込まないで!」


 


ミナはふと、ある一点に引っかかりを覚えた。


「マヨイさん、あの落書きした新人・沢村さん……彼女、こう言ってましたよね。

“社長に笑ってもらいたかった”って」


 


「うむ、それがどうした?」


「それって……“社長が笑う”状況を作りたかったってことじゃないですか?

つまり、ギャグを“受け取る側”として考えてたわけで……自分のネタを“勝手に回す”ことに抵抗があったはずです」


 


「ふむ……では、ネタを回した真犯人は別にいる……」


「はい。そして、それは“封筒を開けた人”と一致するはずです」


 


マヨイは椅子から勢いよく立ち上がった。


「よし! わしの中で一つの仮説が完成した!」


 


「また迷推理、きましたか……?」


 


「これは、“ネタの遺志を継ぐ者による拡散型ギャグテロ”なのじゃ!」


 


「違う! ギャグテロって何!? どこから来たその言葉!」


 


マヨイはお構いなしに続ける。


「社長のネタ帳を読んだ誰かが、これをもっと世に広めるべきだと思った。

そう、これは“ギャグの独り占めは許されぬ”という使命感による犯行!」


 


「いやいやいや! 使命感とかじゃなくて、ただのお節介ですから、それ!」


 


しかし──それでも何かがひっかかる。

なぜ金庫に入れたはずの封筒が、無傷で広まったのか?

本当に金庫は“開けられていた”のか?


 


「……あれ?」


ミナが、資料に目を落としたまま、ぽつりと呟いた。


「社長、昨日の夜に残業してたって言ってましたよね。で、“金庫に封筒を戻した”って……」


 


「うむ。封印した大事なネタを」


 


「それ、本当に戻してたんですかね?」


 


マヨイとミナの視線が、同時に上がる。


まさかの“初期ミス”が、すべての事件のはじまりだったのか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る